家に帰ってすぐに着替えた。

 部屋を出て階段を降りると、おばさんが心配そうに私を見ていた。
 「詩織、大丈夫?」
 「うん、ありがとね、おばさん。ちょっと出掛けてくるね。」

 そう言って玄関を出ようとしたところで、おじさんに声をかけられた。
 「詩織~、さっき真田君が家に来てたんだけどね・・・、なんだか突然・・・・。」
 「あ~、うん。それももう大丈夫だと思う。おじさんもありがとう。」
 「そ、そうか・・・・。」

 靴を履いて玄関を出ようとしたけど、おじさんとおばさんは不安げな視線を私に向けていたから、私は玄関の前に立って振り返った。
 「私は本当に大丈夫!帰ってきたらちゃんと説明するからね。それじゃあ、行ってきます!」
 まだ不安の拭いきれないおじさんとおばさんを残して家を飛び出した。

 石段を駆け下りながら自分に言い聞かせた。

 笑顔で見れるまで帰らないって決めたのは私なんだから、笑顔で戻らなきゃ。
 たとえ笑えなかったとしても・・・、絶対に泣かない!

 石段の下の方で真田君が座って待っていた。
 「お待たせ!それじゃあ、行こっか。」

 いよいよ・・・、戻る時が来た・・・。私の本当の家に・・・・。

 電車に乗り、米沢駅で降りた。
 しばらく歩くと、懐かしい住宅街が見えてきた。

 通いなれた通学路、夜中1人で竹刀を振りに来ていた公園、受験勉強しに通った図書館、そして・・・・。

 ・・・そこには、すでに家がなかった・・・。

 「・・・・・・。」
 軽く砂煙の舞う空き地の中に入っていった。

 ・・・・私の・・・家・・・・。

 「ここね・・・。昔、私が住んでいたところなの。」
 「え・・・・。」
 真田君の声から、驚く様子が想像できた。
 「まさかもう家がなくなっちゃってるとは思ってなかったけどね・・・・。」