私たちは中庭のベンチに移動した。

 何を話したらいいのか分からず、黙って校舎の窓に小さく写る自分達の姿を見つめていた。
 真田君もまだ少し呼吸が乱れているのか、黙って肩をゆっくり上下に動かしていた。

 噴水の音が静かな校舎に反射していた・・・。
 1匹の蝶がヒラヒラと噴水の近くに涼みに来た・・・。

 「今日さ、朝倉の家に行ったんだ・・・・。」
 噴水のそばを飛ぶ蝶をぼんやりと目で追っていたら、真田君が話を始めた。

 「えっ!?私の家って柏木町の?」
 真田君は黙って頷いた。

 「昨日のこと、少し言い過ぎたから謝ろうと思って・・・。そしたら朝倉のおじさんが出てきて・・・。朝倉の両親のこと・・・、教えてくれた・・・。」

 ・・・・・・。そういう事か・・・。

 「・・・・。そっか・・・。聞いちゃったか・・・。」

 蝶は涼みを終えてどこかに飛んでいった・・・。

 真田君はベンチから立ち上がり、私の前に立って頭を下げた。
 「ごめん!!俺、何も知らずにひどい事言ってた・・・。本当にごめん!!」

 真田君が謝ることじゃないのに・・・・。
 もとはといえば、私があんなこと言っちゃったせいで・・・・。

 でも・・・・、私はあなたに本気で前に進んでいって欲しかったから・・・・。
 もう1度、笑顔で前を向いて生きていって欲しいから・・・・。
 ・・・だから・・・・・。

 頭を下げたままの真田君を見つめながら、私は新たな決心をした・・・。
 このままじゃ、だめだもんね・・・・。私も・・・、そして彼も・・・・。

 帰ろう・・・。私の本当の家に・・・・。

 決心を形にするように、立ち上がって彼を見た。
 「真田君。今日はこの後時間ある?」
 「えっ・・・ま、まあ・・・。何もすることはないけど・・・。」
 真田君は驚きの表情で私を見た。
 「よし!じゃあちょっと行きたい所あるからついてきてくれる?」
 「あ、う、うん・・・。」
 湧き出てくる不安をかき消すように彼に笑顔を見せた。