私はただひたすら彼の目を見つめていた。

 お願いだから・・・、そんなつらそうな顔しないでよ・・・。
 あなたのために、私がしてあげられることってなに・・・?
 あなたの笑顔を取り戻すために、私ができることってなんなの・・・?

 彼の目から1筋の涙が流れ落ちるのが見えた・・・。

 「真田君は、間違っていなかったよ。」

 なんでこんな事言ったのか、自分でもよく分からなかった・・・。
 でも、今の私の気持ちを伝える最適の言葉・・・のような気がした・・・。

 彼も、私の意外な言葉に驚いて私と目を合わせた。
 涙に潤む彼の瞳の奥には後悔と絶望だけが広がっていた・・・。

 締め付けられるような胸の苦しさに堪えきれず、涙の伝う彼の頬に手を伸ばそうとしたその瞬間・・・・。

 私は傘を持つ右手を引っ張られて、彼に抱き寄せられた・・・。
 彼の腕は強く、そして悲しく私を抱きしめてきた・・・・。

 「・・・・・うっ・・・うぅっ・・・・・・。」
 彼は黙ってすすり泣いていた・・・。
 私も動かないで、静かに彼のすすり泣く声に耳を傾けていた・・・。

 裏返った傘にあたる雨水の低音と、墓石にたまった水たまりに当たる雨水の高音が、不規則な二重奏を奏でていた・・・。

 真田君は少し落ち着きを取り戻すと、「ごめん・・・。」と一言残して、その場を去っていった・・・。

 私は真田君が見えなくなった後、裏返しに転がっていた傘を手にとって、真田君が立っていたお墓を見た・・・。

 「沢木家之墓」と書いてあった・・・。
 墓石の裏側には「沢木遥(享年壱拾五歳)」という文字が刻まれていた。
 その文字を左手でゆっくりとなぞった。

 真田君がこれまでの人生で最も愛した人・・・。最も大切にしてきた人・・・。
 沢木さん・・・・。真田君が・・・、笑わなくなっちゃったよ・・・・。
 彼の笑顔を取り戻せるのは・・・、やっぱりあなただけなのかな・・・・。
 私には・・・、何もできないの・・・・?

 文字を見ていると涙が出てきた。

 お墓にあたる雨水が文字を伝って流れていった・・・。
 沢木さんもまた、泣いていた・・・・。