信号の色が赤から青に変った・・・。
 俺はそれを見てゆっくりと自転車のペダルを踏んだ・・・。

 静かな朝だ。人は沢山歩いているのに、話し声は一切聞こえない・・・。
 いや、違うか・・・。俺が聞こうとしないだけか・・・。

 最近、1人になるとよく考えることがある・・・。

 人間って・・・、一体なんなのだろう・・・。

 携帯電話を片手に忙しなく歩いていくサラリーマン、おしゃべりに夢中でろくに前を見ていない女子中高生、腰をかがめながら飼い犬に引っ張られて歩く老人・・・・。

 姿形は全然違うものの、どいつも人間であることに変りはない。
 人間の社会には法律というものがあって、人間である以上それに従わなければならない。
 もし、従わなければ自分自身に不利益が降りかかる。

 ・・・だけど・・・。

 どうしてそれに従わなければならないのか、きちんと分かっている人はどれくらいいるのだろうか。
 民主主義だから?みんなで決めたことは守るのが当たり前だから?
 でも、法律を決めたのは偉い国会議員の方々だ。俺たちはその意思決定になんら参加していない・・・。

 人間の社会っていうものは本当によく分からない・・・。
 酸素を吸って二酸化炭素を出す生き物である点では、猿となんら変らないのに・・・。
 猿だけじゃない。犬や猫、さらに言うなら、今そこのおじさんに踏まれて死んだ蟻とだって同じだ。
 なのに、人間の社会にだけは厳しいルールが沢山ある。
 蟻を殺すあのおじさんはどうでもいいのに、人を殺した奴は処罰される。
 同じ生き物を殺しているのに、どうして・・・。

 もし、人を殺すことが、自分がされては困るから、というだけの理由で禁止されているのだとしたら、いつ死んでもいい俺は人を殺してもいいことになる・・・のだろうか。

 分からない・・・。本当によく分からない・・・。