「萌香チャンらしいな……」


「え?」


思ってもみなかった言葉に、あたしは力が抜ける。


――萌香チャンらしい……?

その言葉が頭をぐるぐる巡る。



「オレ、初めて萌香チャンの手握った時から思ってたんだよね……。萌香チャンて、ひょっとして料理とか家事とかやってんのかなって」


卓巳君はそっとあたしの両手を包み込んだ。

そして初めてあのホテルであたしの手を握った時と同じように、自分の口元に近づける。


「オレ……前に料理屋でバイトしてたからわかるんだ。水仕事ばっかやってると、いくらクリーム塗っても追いつかないんだよね」


その瞬間、カッと頭に血が昇った。

恥ずかしくてどうしようもなくなる。

卓巳君が言っているのは……つまり、あたしの手がカサカサに荒れてるってことだと思う。


なるべく気をつけて、ハンドクリームをつけているつもりだけど……家事全般をこなすあたしにとって、この季節はどうしても肌が乾燥して手が荒れてしまうのだ。

もちろん家事の邪魔にならないようにと、爪は短く切りそろえてある。

実はこんな自分の手がコンプレックスだったりするのだ。



「こんな手……色気ないよね」


もう、泣きそう……。


「そんなことないよ」


卓巳君の唇があたしの指先に触れた。


「これは勲章でしょ? 家族の健康をちゃんと守ってるって」


卓巳君はそう言ってにっこり微笑んだ。