「とりあえず、コート脱げば?」


「うん……」


卓巳君に言われたあたしは、コートを脱ごうとして、ポケットの中に入っているものに気づいた。

あ…そうだ。

映画の試写会。


「卓巳君っ。あのっ……」


やだっ……。

意識しすぎて声がうわずる。


「今度の土曜日……あ、空いてる? さっき優一君から映画の試写券もらったんだ。良かったら一緒に……ど……かな?」


言いながらますます緊張してきて、最後は上手く言葉にならなかった。

できるだけ自然に言わなきゃいけないのに……。

これじゃガチガチだよぉ。


なんて答えが返ってくるか怖くてあたしは卓巳君の顔を見ることもできない。


たった数秒の沈黙がずいぶん長い時間に感じられた。


そして……


「……ごめん」