卓巳君の大学へ向かう途中、あたしはある場所で足を止めた。


それは小さな教会だった。

そういえば、もうすぐクリスマスだ。

クリスマス礼拝の予行練習なのか、教会からは賛美歌を歌う子供達の声が漏れている。


亡くなったお母さんはキリスト教徒だった。

夫婦だけどお父さんは信者ではなかったので、あたしも洗礼は受けていなかった。

それでも日曜にはお母さんに連れられてよくミサに出かけた。


教会の持つ独特な雰囲気は嫌いではなかった。

ステンドグラスから差し込む光、焚かれたお香の香り、キャンドルの灯り、パイプオルガンの音色……そして十字架に貼り付けられたキリスト像……。

全てが厳かな雰囲気を醸し出していて、子供のあたしにはまるで現実の世界とは違う場所へ足を踏み入れているような感覚だった。


――『たとえ誰も側にいなくても、恥じることのない清い行いをしなさい。神様はちゃんと見ていますよ』


あたし達姉弟に向けられたお母さんの口癖。



そんなことを思い出していたら、ふいに目の前をチラチラと舞う白いものに気づいた。


かじかんだ手をそっとかざした。


――雪だ。


雪が降ってきた。


寒いはずだな……。


あたしはさっきより足を速めて、教会を後にした。