――卓巳君、大丈夫かなぁ?

今日はちゃんとご飯食べてるのかなぁ……。



「ねぇちゃん飯まだぁ? オレ腹減ってんだけど」


その言葉にハッとする。

慌ててグツグツ言っているお鍋の火を止めた。


「うわっ。また煮物かよー? オレ、ハンバーグとか唐揚げとかさ、肉っけなもん食いたいんだけど」


不満げな声を上げながらお鍋を覗くのは弟の敦(アツシ)。


「もぉ、文句言わないの! 根菜は繊維も多いし栄養あるんだよ。こういうのちゃんと食べてたら風邪ひかないんだからっ」


「ねぇちゃんて、言うことがいちいちオバサン臭せーんだよなぁ……」


「オバサン?」


あたしは手にしていたお玉を振りかざした。


「マジおっかねぇし。……んなんだから男できねーんだよ。知ってる? 男はこういう料理は喜ばねーの!」


「うるさいっ。ほらっ、手動かす!」


「ハーイ。すみませーん」なんてブツブツ言いながらも、敦は食器棚を開けていつもの要領で食卓の準備を手伝ってくれる。


いつもの夕食の風景。


あたし達姉弟はお父さんの帰りが遅い日は、こんな風に二人で夕食を済ませる。


筑前煮
太刀魚の塩焼き
ほうれん草の胡麻和え
カブの酢漬け
わかめのお味噌汁

それが今日の献立。

だいたいいつもこんな感じで和食にすることが多い。


もちろん、たまには敦が喜ぶような、ハンバーグやカレーライスやエビフライにすることもある。


だけど……

「なんだよ?」

じっと見つめていたあたしの視線に敦が気付いた。


「ううん。なんでもないよ」


あたしは首を振って、筑前煮をお鍋から鉢に盛り付けた。