耳元で囁かれた低い声に思わず振り返る。


「卓巳君……？」


なんで？

どうして？

あたしの頭に浮かぶ疑問。


いったい何が起こっているのか、さっぱりわからない。

どうして卓巳君がここにいるの？

なんであたしは彼に抱きしめられているの？



卓巳君はあたしの体をぐいと引き寄せて金髪の男の子から引き離すと、ニッコリ微笑んだ。


「萌香チャン、ちょっと待っててね」


そして今度は金髪の彼を睨みつける……と同時に卓巳君の体が動き出した。


「お前……マジむかつく。一発殴らせて」


卓巳君から繰り出された拳は、彼の頬にあまりにもあっさりとヒットした。

彼はヨロヨロと２、３歩後ろへ下がるとそのまま崩れるように地面に腰を降ろした。


「いってっ……何すんだよ？」


そう言って睨み返す彼の目はもう焦点が合っていないように見えた。

ろれつも上手く回っていないようだ。

こうして改めて眺めると、かなり酔っているのがわかる。


「んだよっ。お前だけ良い思いして。いいじゃん、オレにもヤラせろよ」


「は？　……っ、お前何言ってんの？　ナメたこと言ってんじゃねぇよ」


殴られた頬を押さえながらこちらを睨みつける金髪の彼の胸倉を卓巳君が掴んだ。

さらにもう一度殴ろうと、手を振りかざしたその時……。