コンコン…


「はい…」


高めだが、少し沈んだ声が聞こえると、彼女…悠月は、ゆっくりとドアを開けて中に入って行った。


「お母さん…
大丈夫?」


「え…ええ…」


言葉を言い終わらないうちに、ゴホゴホと苦しそうな咳が聞こえた。


この咳の仕方…

肺の病気か?

医療に詳しいワケでもない僕でも…推測がつく。


病室入り口の壁から、少しだけ顔を覗かせると、悠月は母さんの母親の背中をゆっくり、丁寧にさすってあげていた。
僕の視線に気付いた彼女が、目で合図をした。

「入ってきていいよ」

ってことなんだろう。


「あ、紹介するね?お母さん。
私の…彼氏。」


「初めまして。
三ノ宮 和之
といいます。
いつも…悠月さんがお世話になっています。」


「こちらこそ。
悠月を…よろしくね?」


「はい。」


母さんのベッドの脇のテーブルの花瓶を持って、悠月は花を生け始めてる。


ホントに…大好きなんだな。
母さんのこと。


しばらく、ベッドの隅にそっと腰かけて、いろいろな話をしていた。


笑ったときの目元とか、唇の形がハッキリしてるところとか…
悠月そっくり。


30分ほど経って、病室を出ようと廊下に目を向けて、側を通りかかった看護師に会釈をした…その瞬間。


ゴホゴホッ!!


激しい咳が。


「星河原さん!?」


看護師が駆け寄ってきて、僕たちは外に出ているよう言われた。


「脈拍低下…!呼吸器用意!」

看護師さんの切迫した声の中、僕はひたすら、震える悠月の肩を抱いていた。