いつも通り2人で朝ごはん食べて、いつも通り出勤した。

すると、院長がまれに見ることのない、深刻そうな顔をしていた。


「院長…?」


その周りにはすでに医師が全員集まっていて、ただならぬ雰囲気を感じた。


「皆…すまない。
もしかしたら…この病院を…閉めなければならないかもしれん。」


「え…」


突然のことに…思考回路が一瞬だけストップした。


「昨日の病院の決算で発覚した…経営赤字でしょ?
なんとかして少しでもお金を入れないと、ココ…つぶれるよ?」


そう言って現れたのは、この病院のオーナー、
宝月 彩(ホウヅキアヤ)だった。

顔を見るのは数えるほどしかないが、
多くの大企業の株を持つ、かなりのやり手だ。
親が有名財閥のトップだという噂も聞いたことがある。
そんな彼女が言うのだから、まず間違いはないだろう。


「そこで、1つ、提案があるの。
日本一の獣医師を決める大会があるんだけど…
ウチの病院から奈留ちゃん、出してみない?」


突然の、オーナーからの提案。
その大会で優勝すれば、賞金1000万円と、ドイツへの留学権が与えられる。


だけど…奈留…まだ無理だろ…
俺ならなんとか3位くらいには、入れる自信がある。

「奈留は…まだ新米です!
彼女が出るなら俺が…!」


『この大会…"女性獣医師"だけよ?
出られるの。
まぁでも…あなたなら…女装してもバレないんじゃないかしら?
あ、体格が良すぎるから…ダメね…クスッ。」


誉めてるのかけなしているのかがイマイチ分からない。

端から見たらちょっとムカつくこの喋り方…が、「経営者」独特なのかな。


「私…出ます!!
その大会…出させてください…」


「奈留っ…お前…」


「院長、止めないでください。
優勝なんて…できるかは分からないけど…
それでこの病院を救えるなら…私は何でもします!」

分かった。

奈留がそう言うなら…俺は精一杯サポートするよ。