――紙ヒコーキ一つでこんなにも緊張したのは初めてかもしれない。
作り方は思い出せないわ、隣にいる彼女は俺の作業にひたすら見入るわ。
勘だけを頼りにようやく作り上げた紙ヒコーキは、ボロボロではなかったが、何だか頼りなくて、やっぱり飛びそうな気がしなかった。
ひとまず投げてはみたが、案の定全然飛ばなくて、俺たち二人の間を、気まずい空気が包み込んだ。
「……おい、笑うなよ」
彼女は腹を抱えながら笑いを必死に堪えている姿に、余計恥ずかしさが増して、顔が紅潮し、急に暑く感じた。
「――…隼人?」
突然自分の名前を呼ばれて、驚きつつも俯いていた顔を上げると、母親が目の前にいた。
いつからいたのだろう。
顔を手で覆い隠していたせいか、近づいてきていたことに全然気付かなかった。
「…次は絶対成功してやっから」
ゆっくり立ち上がり、長椅子に座っているの彼女のほうを振り返って、半分ムキになりながら言った。
そして、傍らに置いていた松葉杖を手にして歩きだそうとすると、ふと俺の服の裾を掴んだ彼女に妨げられた。
「……何?どうかした?」
曖昧に笑って、俺を見つめる彼女に優しいトーンで訊ねた。
その彼女はというと、ぎこちなく微笑んで小指をたてた右手を差し出した。
『ゆびきり』の合図。
俺は彼女の行為に合わせて、彼女の小指に自分の小指を引っ掛けて、ゆびきりをした。
もう二度と会うことはないであろう彼女と。