間違いなく、あの時彼女はムキになっていたと思う。
面識のない俺が自分が長椅子に置き忘れたスケッチブックを持ってるわ、ましてやその初めて会った俺に、自信作の紙ヒコーキを笑われるわ。
今のこの状況は、彼女が怒るのも無理もないのだ。
怪訝そうな顔を浮かべた彼女は、半ばやけになりながら手にしていた紙ヒコーキを思いっきり投げた。
「つーか、飛ぶわけないし!」
案の定、紙ヒコーキはひょろひょろと力なく床へと落下していった。
その光景を見て、ますます笑いが止まらない俺とは対照的に、隣にいる彼女は納得がいかないのか眉間にしわを寄せて、本当に悔しそうな顔をしていた。
「悪い…こんな、笑うつもりなくて…」
「……」
笑いを堪えながら謝る俺の姿は、彼女の目からしてみれば、全くもって説得力なんてないのだろうが、今の俺はそんなことは気にも留めていなかった。
「――…教えてやるから」
「……?」
「紙ヒコーキの作り方、俺が教えてやるから」
この時、初めて彼女と目を合わせて会話をした。
透き通るような白い肌に、長い黒髪は綺麗に三つ編みにして束ねられ、それよりも何より首もとに巻き付けられた白い包帯がやけに目についた。