「あ…悪い!誰のか分かんなくて、つい…」


何謝ってんだろう、俺。

悪いことなんてまだ何もしていない筈なのに、何故かこの女の子を前にした瞬間、謝らずにはいられなかった。


その女の子はというと、赤くなったままの顔をスケッチブックで隠しながら、首をブルブル横に振って、俺に遠慮がちな態度を取っていた。




「あ…っと、ここ…座る?」


とっさに自分の隣の空席を2、3回叩いて、隣に座るように勧めた。

特に根拠という根拠は無かったが、未だに呼吸が整わずに肩で呼吸をしていること位は一目瞭然だったから、少しでも休ませたほうが良策だと思った。


当の彼女はスケッチブックの上からほんの少しだけ顔を覗かせて、俺が勧めた席と俺を交互に何度も見やると、一回深くお辞儀をして、俺が勧めた隣の空席に座った。



――今思うと、隣に座らせる理由なんて、何一つ無いんだよな。

動揺していたとはいえ、自分が取った行動の軽はずみさに、今更恥じらいを覚えた。



一方、彼女とはというと、椅子に座るないなや突然ビリリッと勢い良く大切そうに抱え込んでいたスケッチブックの紙を豪快に破り、折ったり広げたりして、何やらそそくさと作業を始めた。