俺の角度からは智由の表情を伺うことは出来なかった。
ただ、何故か智由が泣いているように見えて、それが見たことも無い筈の彼女の泣いている姿とダブって見えた。
俺の知っている彼女からは到底想像もつかない姿に、凍り付いたように身動き一つ取れずにいた。
「―――どうしたの?不幸少年君」
前から誰かに呼ばれたような気がして見てみると、先生と話している筈の彼女が目の前にいた。
さっきまでのあの険しい顔から一変して、彼女はきょとんと少しおどけた表情をしていた。
「別に?コイツがお前のこと探してたんだよ」
平然な態度を装って、智由な頭をポンポンと叩いて顔が引きつってしまって、苦笑いとも言える笑みを見せた。
「ふーん」とか言いながら、怪訝そうな顔をする彼女を、内心ヒヤヒヤしながらも、「何だよ?」と誤魔化すように尋ねると、「何でもない」と、いつもの彼女の笑顔で応えた。
それを見て、俺は思わず安堵のため息を零した。
――…でも、それと同時に悟ってしまった。
痛感させられてしまった。
俺と彼女との間にある、あまりに大きすぎる壁を―――。