「――…ねえ、あれお姉ちゃんかな?」


二人で桐谷凛を探しに中庭を探索していると、俺の手を握る智由は急に立ち止まり、じっと見つめている先を指差して、呟くように言った。



その方を見てみると、確かに彼女の姿がそこにはあった。


そしてその隣に彼女と話しているのであろう、誰かがいるのも分かった。




「早く行こうよ!」

「え…、おい?!」


俺の言葉に全く聞く耳を持たない智由に、半ば無理矢理に連れられながらも、俺たち二人は少しずつ彼女のもとへと近付いていった。




「――帰ってくれませんか?」


彼女との距離がわずか数メートルになったとき、いつもとは明らかに違う彼女の不機嫌そうな声に思わず立ち止まった。


眉間に皺を寄せて、険しい表情を浮かべながら睨みつていける彼女の視線の先には見ず知らずの女の人がいた。




「でも桐谷さん、このままじゃ…」

「先生には関係ありません。本当に何にもありませんから」



大きくため息をついて、うんざりしたような口調で彼女は『先生』と呼んだ女の人の言葉を最後まで聞かずに口をはさむと、また睨みつけた。




「―――別に今日が初めてって訳じゃないの」



口を開いたのは智由だった。

動揺している俺を余所に、やけ冷静な様子の智由は、視線を俺に向ける訳でもなく、じっと彼女たちを見つめたまま、そのまま話を続けた。




「あの人、この前もお姉ちゃんの所に来てたの」

「初めて…じゃ、ないのか?」

「うん。智由にはよく分かんないけど、お姉ちゃん…あの人と話した後泣いてた」



ギュッと、少しだけだが智由の握る力が強くなった。