「――今日は1人なの?不幸少年君」


後ろから誰かに声を掛けられ、振り返ってみると小学生位のパジャマ姿の小さな女の子が肩からピンクのショルダーバッグを提げて、俺の服の裾を引っ張りながら上目遣いで俺を見つめていた。


病院内で自分より明らかに若い子供を見るのは初めてだし、勿論、この彼女とは初対面だった。

一瞬、迷子なのかと思って辺りをキョロキョロと見回してはみたが、どうやら違うらしい。




「今日はお姉ちゃんと一緒じゃないの?」


訳が分からずにきょとんとする俺に、彼女は不機嫌そうな顔をして、今度はやや乱雑げに何度も服の裾を引っ張ってきた。


俺のことをあの『不幸少年君』と呼ぶところからして、おそらく、いや間違いなく彼女の言う『お姉ちゃん』というのは、あの桐谷凛のことだろう。




「今日はお姉ちゃんとは一緒じゃないよ。探してるのか?」


しゃがみこんで小さな彼女と目線を合わせて、怖がらせないように優しく微笑んで、今度は逆に彼女に尋ねてみた。




「うん。智由ね、お姉ちゃんと遊ぶ約束してるの」

「そっか…、じゃあ俺もお姉ちゃん探し手伝おうか?」

「ほんと!?嘘じゃないよね?!!」

「本当。嘘なんかつかねえよ」

「ありがとう!不幸少年君」


満面の笑みを浮かべているお礼を言う『智由』と名乗る女の子の頭をポンポンと2、3回叩いて、立ち上がると2人で彼女、桐谷凛探しを始めることになった。