「――…左足複雑骨折、全治2ヶ月…といったところだね」



――7月に引退試合を控えた3月。


眉間に皺を寄せ、深刻そうな表情を浮かべながら、医師は目の前にいる俺にそう宣告した。




「――取り敢えず。その足が治るまでのしばらくの間、あまり足には負担を掛けないようにしなさい」

「…分かり、ました」



本当にツイてない。

引退試合をもうすぐそこに控えている大事な時期だというのに、骨折をしてしまうだなんて。




「――ってぇ」


一寸先は闇、とはこういうことなのだろうか。





―――あの瞬間、全てが輝いて見えた。



試合も、もう後半残り10分を切った頃。


光が見えた。

フルで試合に出ているにもかかわらず、体がすごく軽くて、自分の意のままにプレーができて。


最高だった。

このまま、試合を続けられたら……――。



そう思った瞬間、突然訪れた強烈な痛みで自分の身体が急に動かなくなったかと思えば、俺はそのまま地面に倒れ込んだ。




何かが、大きな物音たてて崩れていくのを感じた。


整うことのない呼吸が妙に息苦しくて、自由が利かなくなった左足の痛みは、さらに激しさを増していき、真っ昼間だというのに、何故か空は真っ暗で。


さっきまで見えていたはずの光は、微塵に消え去り。




薄れ消えゆく意識の中で、俺はただ絶望を感じていた。