気まずい沈黙。
彼女はそれを、いとも簡単に破ってみせた。
何も喋れずに黙り込んでいる俺をよそに、彼女は自分が座っていた場所にスケッチブックを置くと、パタパタとスリッパで軽快なリズムを刻みながら、フェンス近くに落ちている紙ヒコーキのもとへと駆け寄って行った。
「…まぁ、なかなかいい感じなんじゃない?不幸少年君?」
紙ヒコーキを拾い上げ、顔を傾けて、何故か上から目線で満足気に微笑む彼女。
そして、今度は彼女が手にした紙ヒコーキを向かい側のベンチに座っている俺に向かって、思い切り投げ飛ばした。
「あ…れ…?」
気合いとは裏腹に、彼女は怪訝そうな顔をしながら、気の抜けた声を出した。
眉間にしわを寄せて、凝視し続けている視線の先には、あの紙ヒコーキがある。
無理もない。
彼女の投げた紙ヒコーキは、『飛んだ』と言うよりは、むしろ、『単に落下した』と言ったほうが正しかったのだから。
飛距離わずか一メートル弱。
思い切り投げ飛ばしたにもかかわらず、斜め下に綺麗に下降し、ストン、と見事に落下した。
ここまで下手だと、よっぽど飛ばし方が悪いのか、よっぽど才能が無いかのどちらかだ。
「な…、何でーっ?!」
どうやら相当気に食わなかったらしく、紙ヒコーキを指差して、不機嫌極まりない表情で甲高い声で叫ぶ彼女。
その様子を、ベンチに座っていた俺は高笑いをしながら、まるで高見の見物をしているかのように眺めていた。