俺は屋上の自分の身長の二倍くらいの高さのフェンス近くにある、かなり色の褪せた青いベンチに腰掛けた。


座った反動で、わずかに軋む音がしたが、大して気にも止めなかった。




「……どうして折り紙なんか持ってるの?」

「あー、さっき買った」


パタパタと恒例のヒヨコ歩きで歩み寄ってくる彼女に、屋上に来る前に病院の売店で買った折り紙を見せ付けるように差し出した。




「でも、どうして?」

「紙ヒコーキ作るならこっちのほうが楽なの」



『楽』という言葉に、若干隠喩を折り込ませながら、俺は少し嫌味がましく言った。

そして、折り紙を一枚袋から取り出して、丁寧に折り始めた。


無言のまま、静かに俺の隣に座った彼女は、あの時と同様に、食い入るように俺の作業に見入っていた。




「――…できた?」

「ああ…多分」


思い詰めた声で訊ねる彼女に、相変わらずの生返事をして、出来たばかりの紙ヒコーキを前に思い切り投げ飛ばした。




「――…あ」

「あ…れ…?」



唖然として間抜けな声を出した俺と、気の抜けた彼女の声が馬鹿でかい青空へと消えていった。


あの紙ヒコーキはというと、綺麗な弧を描いて飛んで行ったかと思った矢先、数メートル先にあるフェンスに激突して、ひらひらと力なく落ちてしまった。