「あー、髪がグチャグチャ…」


俺が思い切り頭を撫でてしまったせいで、完全に髪型が崩れてしまった彼女は、両手で何度も髪を触っては、必死に整えていた。




「ねぇ、私の髪…これで大丈夫?」

「あぁ、別に適当でよくね?」

「な…っ、全然良くないよ!」



少し思い詰めたような声で訊ねる彼女とは対照的に、新鮮な空気で大きく深呼吸をしながら呑気に適当な返事を返した。


俺のいい加減さに見かねてしまったのか、彼女は呆れ口調で「もう!」と言って、俺の背中を手にしていたスケッチブックで力一杯叩いてきた。




「…って、叩くなよ!」

「どうして?悪いのは不幸少年君のほうだと思うけど?」


思わず振り返ると、不機嫌極まりない表情を浮べてながら、彼女は俺に睨むような目で見つめていた。

だが、足元を見れば、あのヒヨコみたいなてけてけ歩きで俺に歩幅を合わせようとしている様子が、何とも不釣合いで、また自然と笑いが込み上げてくる。




「…何が可笑しいのよ?」

「別に?ヒヨコに言うことでもないし?」

「ひ…っ、ヒヨコ?!」


俺にヒヨコと言われてしまったことが余程ショックだったのか、彼女は眉間にしわを寄せ、大事そうに抱えていたあのスケッチブックを大袈裟に落とした。


予想通りの彼女の反応がやっぱり可笑しくて、笑いながら得意顔で「ばーか」と言う俺を、彼女はずっと睨んでいた。