当の彼女はというと、俺の叫び声によっぽど驚いたのか、目を大きく見開いて、きょとんとした表情で俺を見ていた。
そしてしばらくして、「そうそう」とか言いながら首を何度も縦に振り、俺に同意を示した。
「でも、私が喋れないだなんて誰も言ってないでしょ?」
にこにこしながら、おどけた顔で言う彼女。
――ああ、成程。
俺はまんまと彼女の陰謀にハマったという訳か。
騙された割にはやけに冷静にため息を零す自分がいた。
「それより、早く教えて。不幸少年君?」
「あのなぁ…何で俺が不幸少年なんだよ?」
「…そんな雰囲気だったから?」
「雰囲気って…」
どんな雰囲気だったんだよ。
彼女の独特な価値観に多少戸惑いを感じながらも、内心、他人から自分がそう見えていたことにショックを隠しきれなかった。
「ほら、また不幸そうなお顔になってるしー」
「るせぇな、つーか俺別に不幸少年じゃねぇし」
もう何度目かになる背伸びをしながら、俺の頬をつねる彼女の頭を、片手で髪がクシャクシャになる位撫でて、やっと屋上へと足を踏み入れた。
見渡すかぎりに広がる青空。
今まで独特の消毒液の臭いが漂っていた病院内にいたせいか、いつも吸っている空気の筈なのに、やけに美味しく感じた。