果たしてこれは、本当に誰かが置き忘れてしまったものなのか。
それとも、彼女の陰謀なのか。
どちらなのか俺にはとても分かりかねなかったが、いずれにせよ、俺はこの紙ヒコーキを手に取り、広げていたと思う。
「不幸少年君へ…」
広げるやいなや、目に入った最初の言葉だった。
今時の女の子が書いたような、全体的に丸みを帯びた可愛らしい字体で書かれたその文章は、その『不幸少年君』とやらに紙ヒコーキの作り方を教えてもらうように催促していた。
この手紙の主が誰なのか、そして、冒頭部分に書かれた『不幸少年君』とやらが誰なのか、見当は容易についた。
ひとまず長椅子に腰掛け、俺はしばらくその手紙とにらめっこをしていた。
ふと、誰も居ないはずの隣の席を見ると、一瞬、あの時の彼女の幻影が俺の目に映った。
あの時俺が拾ったスケッチブックを大事そうに抱えながら、優しく微笑んで、小指だけをたてた小さな手を俺に差し延べて、ゆびきりをせがむ彼女。
俯いて、目頭を指で押さえながら、大きなため息を零す。
そしてガバッと勢いよく立ち上がり、その手紙に書かれた指定の場所へと足を運んだ。