『私…空になりたい』


ブラウン管越しの、まだ少し幼い姿のままの彼女はあどけない笑顔を見せながらそう言った。



彼女の笑顔を見るだけで、声を聞くだけで、すごく温かくて、懐かしい気持ちになる。



――ふと、俯いて足元を見た。


くるぶし辺りにある、左足の古傷の上には、あの頃に彼女から貰ったミサンガがまだ残っている。




『だって…空って綺麗だし、色んな表情を見せることも出来るし…』


一つひとつ思いのままに言葉を紡いでいく彼女に見入りながら、大きなため息を零し、乱雑に髪を掻き上げた。

これを見るのは別に初めてという訳ではない。



もう、何度も見た。


もう見るまい、とどんなに意識をしていても、無意識のうちに手を伸ばし、気付いたときにはブラウン管に映る彼女を見入る俺がいた。





『何より…ずっと見守ることができるでしょ?』


とびきりの笑顔に、とても晴れ晴れした彼女の声。



その笑顔も、仕草も、何もかもが愛しくて。


いつも、もどかしくて、どうしようもない衝動に駆られる。




『ねぇ…隼人……』


ゆっくりと目を瞑って、彼女は俺の名前を呼ぶ。




「凜…」


それに合わせて、俺もゆっくりと目を瞑り、彼女の名前を呼んだ。



瞼の裏に映る、彼女との過去の思い出の記憶は、まったく色褪せることなく、まるで昨日のことのように蘇る。



ゆっくりと目を開けて、あの頃の記憶とまったく変わらないままの彼女にもう一度目を向ける。




『私…ここに、いるよ?』


彼女の口癖。


何かある度に彼女はこの言葉を口にしていた。




――あの頃は、目に見えるものが全てだった。


自分の世界があまりにも狭くて、ちっぽけなものなんだって、彼女に出会うまではまるで気付きもしなかった。



そう、彼女に出会うまでは。