「あ、ここです」

少し走らせると、
少女のストップがかかった。

「よければ、部屋まで運ぶよ?」

俺の恋人は、基本的に女性には親切だ。


「でも、彼女、
 自我があんまりないんですよ。
 あ、恋人も女なんですけど」

自我が無い者は、
基本的に同じゾンビには無関心で、
しかし人間には襲いかかったりする。


「私の事は解るんですけど、
 でも、家族もちょっと怪しくて……」

だからきっと、
俺が襲われる事を予想しているんだろう。

「俺は車で待ってるから、
 早く行って来いよ」

「すみません」

「じゃあちょっと行ってくるね」

そう言って、2人は車をおりた。


彼に持ち上げられる袋は、
平均的な成人男性と比べても、
かなり大きめだと言えるだろう。

ゾンビになった人間は、
身体能力が格段に上がる。

だから彼は軽々とあの袋を持っている。
まあ、人間だった頃から力はあったけど。

とにかく、あの袋は
少女には大変な大荷物のはずだ。


……よく捕まえられたな。

そして、袋の綺麗さから考えて、
きっと引きずられはしていないんだろう。

もしかすると、彼女もそうなのだろうか。

でもまあ、俺には関係のない事だ。


いまだ欠けている腕に
少々の痛みを感じながら、彼の帰還を待つ


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