「あの、帰らないんですか?」
「ん、ああ。
だって俺、海見るために
此処に来たし。
…それに、アンタ目ー離したら危なそうだから。」
淡々と俺はそう話す。
「ははっ。もう今日海に入るのは諦めましたよ。」
「……違げーよ…。」
自分の声がさっきよりも
低くなったことがわかった。
「え?」
「…アンタもし一人になったら
――本当に自殺しそうだから…」
ビュー-…
ザザーン………
冷たい風が俺達の間を通り抜け、
小さいはずの波の音は
この静寂の中で不思議なくらい
強く、強く響き渡った。
俺は海を眺めながら話していたから
女がどんな表情で
俺の言葉を
どんな風に思ったのかも分からない。
でもその風と波の音は
まるで女の想いを
必死に掻き消そうとしているようだった。
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