あの日はある人の命日なのだと聞いた。二年前に事故死で亡くなったらしい。
「大切な人を守ったんだって。俺の大好きな人だからさ、俺も分かるんだ、あの人の気持ち。俺も大切な人守るために身を投げ出しそうだしね。」そうあの人は笑って言っていた。傷付いていたのは、あの人の方だったのか。
「憧れてたの、死に方までね。」目を伏せたあの人の腕を必死で掴んだ。今にもその人に、天国(あっち)だかに連れていかれそうで。
「貴方はそんなことしなくていい。きっと、守られた方も辛いから。」そんなことされたら、私なら幻想でしか生きられなくなる。あの人の居る幻想でしか。
「それは分かってるよ、その人の大切な人とも友達だから。でもきっとね、身体が勝手に動く。」そう言ってあの人は優しい手つきで私の頭を撫でた。その手の温もりが、生きているんだと思わせた。


私は暫くして、桐山くんに「思わせぶりが辛いのだ」と言った。あの日の事は言わなかったが、桐山くんもあの人に似た手つきで頭を撫でた。
「そうだね。きっとあいつはそれで自分と君を守ってるんだ。」優しい口調だった。私には分からなかった。あの人自身はまだしも、どうして私までも守るのか。
「自ずと分かってくるよ、あいつと一緒に居れば。って言って、知ってるの俺だけなんだけど。」くすくすと笑った桐山くんは、頑張ってと口にした。


何度嫌いになろうとしても、頭から離れない。でも偽善的な笑顔を浮かべるあの人のことなんて、大嫌いだ。