女の子が一年で一番緊張する日。甘ったるい匂いに世間は包まれ、苦い顔も緩い顔もそこらに溢れる。そして女の子も男の子も関係無く紙袋にいっぱいのお菓子を持ち歩く。
ああ、甘ったるいね。
「あんた、チョコあげないの?」友達のその声に、苦笑いではぐらかす。本当はあげたいのも山々だけど、彼は沢山から貰えるもの。義理も本命も。今更私の本命が増えたところでどうともないはず。
「私はあげるよ。」
「頑張って。」友達もこのイベントにかこつけて告白でもするらしい。私はただ微笑んでそう返す。
だって嫌だもの、騒いでる女の子たちのと同じ紙袋に入れられて埋もれていくの。

「これあげるよ!」その輪に入る勇気が無い私。あの子らと同じように出来れば楽なんだろうな。
出来ないからね、でもあげたいから、放課後にそっと入れようかなって思うの。ああ、バレたときに恥ずかしいわ。
ことん、と小さく音を立てて机の中に入れる。どうか少しでもあなたが愛されますように。なんて心の中で語りかけて。
そして私はひっそりと帰宅する。


女の子たちの浮かれ騒ぎもあの一日だけ。次の日からは何も無かったように過ごすの。
特にクラス内で変わったこともないし、新たにカップルが生まれた様子も無い。取り越し苦労、杞憂、その他。
彼も以前と変わらない、毎年アレだから慣れてるのかもね。だから私も忘れてたの。チョコなんてあげたっていう事実を。