いつ切り出そうか。斜陽が部屋を照らす中、私たちは何も言わずに隣に居た。
心地良い空間にこの気持ちを有耶無耶にされそうになる。触れるか触れないか、でもほんのり相手の温かさが伝わる距離。いつもの距離。
それも今日で終わりだって考えたら、泣きそうになって目を伏せた。
「コーヒーゼリー食べようか。」ああ、それが合図なのね。私と彼が終わる合図。それを食べたら、私は別れを切り出そう。
「そうだね。」
「待ってて、用意してくる。」冷蔵庫からコーヒーゼリーを出して、買ったとき付けてもらったプラスチックのスプーンを置くだけなのに、大層なものを食べる気分だわ。
パクリと口に入れれば、甘さと苦さが両方広がる。
「美味しい。」
そう先に零したのは果たしてどっちだったかしら?きっと彼よ、私にはそんな余裕無かったもの。
「ねぇ?」
「ん?」
「もうお仕舞いにしようか。」やっぱりね、少しだけ困った笑顔を浮かべ、分かってましたというように肯いた。
本当は否定して欲しかったなんて知らないでしょ?知らなくて良いのだけど。私から切り出させるなんて酷な人。悲しそうな顔を偽らないでよ。優しいフリなんて非道いわ。
私の要らないもの、置いていくわね。殆ど使わなかった合鍵。この部屋には私の物は無いから、何も持って帰らないけど。
「ありがとうね。」
「こっちこそありがとう。」
最後に一つだけお願い聞いて欲しいの。
「何?」優しく顔で続きを促す。私は一度息を吸い込んで、"お願い"を伝えた。

「最後にキス、して。」

自分で言って、最後の響きに一粒だけ涙流したけどそれだけでやめる。泣きたくないわ、彼の前じゃ。
「分かった。」そう言って口付けたとき、苦いコーヒーの味がした。最後のキスは、色の無い秋の乾風の味だった。