時の流れは人の意思と反した流れ方をする。早くと望むときは遅く、遅くと望むときは早く。
もっと傍に居たいけど、それは無理らしいわ。ちょっと遠く離れた家に帰らなきゃいけない。
電車の中で今日のこと、今日の二人を振り返る。
「楽しかったね。」
「うん、お土産も買えて良かったよね。」
「今度それでコーヒー入れてあげる。」
「ありがとう。」きゅっと握った手は少し汗ばんで、解きたくなったけど離したくなかった。幸せはコーヒーの味なのかななんて思ったりしちゃってさ。
他にも、このときのあそこにいたカップルがどうのこうの、って下らない話を続けてた。それが帰宅時の私たちの楽しみ方だから。
それでもこの時間の流れも無情なの。すぐに終着駅で別れなきゃいけない。
「今日はありがとう。」そう言って彼は私に小さなキスを降らせた。
「こちらこそありがとう。」繋がっていた手はあと数分で離れ離れになってしまうけれど、声はまだ繋がっているから悲しまないわ。
「またね。」どちらともなく交わした次の約束は、今日彼が食べたソーダのような甘ったるい味がした。

先延ばしじゃなくて約束は果たされますようにって願いながら、私は家でもアイスキャンデーを口に放り入れた。