例年より早いのか遅いのか分からないような桜の開花。私は一人寂しく桜並木を歩く。
周りは幸せそうだよ、私には鮮やかすぎて目に悪いけど。
入学、入社、新学年。皆新しいことに浮かれ騒ぐ。
そして桃色の花弁が運んでくるのは、恋の季節？

私には関係ないわね。
特に新しくもない気持ちがある。一人はそりゃあ嫌だわ。
明るい色の季節に、灰色の人混み。正反対じゃないって、クスリと笑う。
香水の混ざった匂いに酔ってしまう、気持ち悪い。
そしてふらりと眩暈に犯されて、心行く先無いまま歩いている。
「あっ、ごめんなさい。」肩と肩が触れ合う。鼻孔を擽る香水の匂いは、なんとも言えない爽やかな香り。今までの不快な匂いを消していく。
「すみません。」軽く頭を下げて顔を上げれば。

……運命の人よ。

キザでベタなお決まりの展開と台詞も似合ってしまうシチュエーション。
影になった顔が、微かに笑うのを見つける。そんなクールな笑顔も似合う人なのね、彼って。
私も咄嗟にクールを装う。見つめてたなんてバレたら恥ずかしいわ！一目惚れなんて画面の中の話よ。そう思ってたのに、違ったみたい。
ぎこちない会釈を交わした私達は、何事も無かったかのように反対の方向に歩き出す。それと同時に時間も動き出したようだった。