その日の帰り。






あたしは自転車置き場で自分の自転車を引っ張り出すのに苦労していた。






・・信じらんないっ!!なにこのマナーの悪さ・・・






ハンドルが別の自転車のハンドルに絡んでなかなか離れない。






おまけにサイドスタンドまで隣の自転車のタイヤの中に入っていたりする・・






悪戦苦闘していると、スッと右側から腕が伸びてきて自転車を持ち上げてくれた。






「あ・・ありがとうございます・・」






その腕の主を見て、心臓が一気に跳ね上がった。







・・・神崎君?!?!?!






「ココの自転車置き場はマナー悪いから・・・」






そう言うとあたしにニッコリ笑ってくれた。






「・・・えっと・・・あの・・・」






「俺、神崎龍。新海綾ちゃん・・・」






「ど、どうしてあたしの名前を?!」






「ココに書いてあるよ?」






神崎君はそう言ってあたしの自転車に書いてある名前を指さした。






「あ・・あぁ・・・なるほど・・」






「・・なんてね。実は前から知ってたんだ。」






「・・え・・??」





「あのさ・・今朝・・俺のツレがなんか・・・はしゃいじゃって・・気付いてたでしょ??」





「あ・・はぁ・・なんとなく・・・」





・・・やっぱりあたしの気持ちに気付かれてたんだ・・・






「綾ちゃん、毎朝7時40分にココにいるよね??」






「・・はい・・」






「俺、入学した時から綾ちゃんをずっと見てたんだ・・」






ちょ、ちょっと待って??



《俺、入学した時から綾ちゃんをずっと見てたんだ・・》って???





「えぇぇぇ?!?!」






「今朝のアレで俺の気持ち気付かれただろうし・・・だったら告白しようかと思って・・帰りを待ってたんだけど・・・」






「あ、あの・・・えっと・・・」





コレって・・・コレって・・・





もしかして・・・両想いだって事?!?!






「もしよかったら・・・俺の彼女になってくれないかな・・・」






コレは・・夢??







「あ・・あたしも!!ずっとずっと神崎君を見てたの!!ずっと好きだったの!!」









一年続いた片想いが、ひょんなことから両想いになった。









コレは運命に違いない・・・







ホンキでそう思った。








龍と付き合いだしてから半年。





あたしたちはまわりが羨むようなラブラブカップルだった。





初めての彼氏・・・





初めてのキスの相手・・・





初めての・・・人・・・






こんな日がいつまでも続けばどんなに幸せだろう・・・







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「龍!!おはよう!!」






あたしたちは毎朝自転車置き場で待ち合わせをしていた。






「おはよ♪綾。」





「龍のところってもうすぐ学園祭だよね??あたし、行ってもいい??」





「当たり前じゃん?ツレたちにも綾の事紹介したいし。」





「うん。ちゃんと紹介してね?彼女ですって♪」





「《かわいい彼女です》ってね?」





そう言いながら、龍があたしの右手をとって歩き出す。





「前から聞きたかったんだけど、綾のコレ・・ってアザ?」





「うん。そうなの。変な形でしょ??」





「・・サクラ・・みたいだね」





「そう。サクラみたいで結構気にいってるんだよ♪」





龍があたしの手のアザをスーーッと指で触れた時、心の奥・・・というか頭の奥が一瞬グラっと揺れて暗闇に包まれた気がした。





なに・・・今の感じは・・・。





まるで、あたしの身体が拒否反応起こしているみたいな・・・






あたしは不思議な感覚に戸惑いながらも、龍の手を握り締めた。










明日は龍の学校の学園祭。





初めて龍の学校に行くから、緊張半分、楽しみ半分・・な感じでいた。





23時を回り、急に睡魔に襲われる。





あれ・・・あたし・・・こんなに眠かったっけ??




まるで麻酔がかかったように、ストン・・と意識を手放した。













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あ・・またいつもの夢の中だ・・・




今日はカラーで・・・結構リアル・・・




町並みも見える・・・やっぱり江戸時代・・・?









「・・・綾・・・桜の花びらのようだ・・・」





「・・本当に・・・孝太郎さんのも私のも・・・桜の花びらのようです・・・」





「・・こんな最期にしてしまってすまない・・・共に・・・」





「・・・共に・・・逝きましょう・・・」





「次に生まれ変わったら・・・この桜の花びらのような火傷を目印に・・・必ず綾を・・・迎えに行くから・・・」





「私も・・・必ず貴方を・・・捜しま・・・・す・・・」







・・・ダメだよ?そんなことしちゃ・・・ダメ・・・ちゃんと二人で生きて・・・







「お願い!!二人で生きてっっっ!!!!」






・・アレ・・いつもなら目が覚める頃なのに・・・





なんで・・・?






「・・・すよ・・・」





女の人の声が聞こえる・・・






「・・・すぐ・・・・え・・ますよ・・・う・・さん・・」






誰?あたしに言ってるの??





聞こえないから、もう一度・・・もう一度言って・・・?





「もうすぐ・・・逢えますよ・・・孝太郎さん・・・」






・・もうすぐ逢えますよ・・孝太郎さん・・??









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ハッと目を覚ますと、目からは涙が溢れていた。





右手の甲のアザがツキンと痛む。






いつもの夢とは違って、とてもリアルで。





もうすぐ逢えるという言葉を聞いて、ホッとしたようなせわしく胸をかきたてるようななんともいえない気持ちがあたしを支配している。






・・今何時だろ・・





ふと時計を見て自分の目を疑った。





さっき寝る前は23時を回っていたのに・・・





今はまだ22時半だった。





なに・・?この感じ・・




あたし・・・なんか変・・・





「・・孝太郎さん・・」





急に思い出した名前を口に出した瞬間、また手の甲のアザがツキンと痛んだ。











翌朝。





いつもよりも念入りにお化粧をして、制服を着る。





龍の学園祭は、外部の高校生は制服を着ていかなくてはいけないらしい。





いつもは下ろしているだけの髪の毛を、サイドで一まとめにしてフィッシュボーンを作って、ちょっと緩めにほぐす。





髪の毛が茶色だったら、このフィッシュボーンも様になるんだろうけど・・・





あたしはどんなにまわりの友達が茶髪になろうが、パーマをかけようが、黒髪ストレートを貫いていた。







【今から向かうね!!】






そう龍にメールを入れてあたしは家を出た。






家を出て、一歩踏み出した時から、急に鼓動が速くなった。






まるで全速力で走っているかのように・・・






龍に早く会いたいからだろう・・・勝手にそう思いこんだ。










「・・綾・・早く・・・」









頭の上からそんな声も聞こえた気がした。







幻聴??






自分の身体が自分のじゃないみたいに勝手に動いているようで・・・







とにかく急がなくちゃ・・・









龍の学校に近づくにつれ、鼓動はさっきよりも速くなっていった。





胸の奥から湧き上がった鼓動が、喉の奥にも達し、耳からもドクドクと聞こえてくる。






あと少し・・・





あと少しで・・・貴方に逢える・・・





自分の感情とは違う感情が胸の奥から聞こえてくる。





・・なんだろ・・・昨日からあたしおかしい・・





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龍の学校の門をくぐり、人ごみを避けながら校舎の入り口にたどり着く。





・・あ。龍にメールしないと・・。





ポケットから携帯を取り出して、





【今から校舎に入るよ♪クラスに行けばいいかな?】と、メールを入れる。





するとすぐに返信があった。






【今、手離せないから、少しブラブラしてて】






【了解です♪】






あたしはそう返信して、何を思ったか図書室を探した。






初めて来る学校なのに図書室の場所がなんとなくわかる。






デジャヴ??






・・違う。誰かに呼ばれているような・・・引き寄せられているような・・・





そんな感じだった。








図書室に近づくにつれ、自分じゃない感情があたしの感情を支配する・・・





《・・もうすぐ逢える・・孝太郎さん・・・》






・・孝太郎さん??夢の人・・・??






そして、図書室のドアの前に立つと身体の力が抜けていくような気がした。







ガラッッ・・・






ドアを開けた瞬間に、懐かしいような求めていたような香りに包まれた。






あたしはドアをそっと閉めて、図書室をぐるっと見渡した。






学園祭だから、人がいるわけもないのに・・・






何してるんだろう・・あたし。龍のクラスに向かおう・・そう思った時、






右手のアザがツキンツキンと痛み出した。






「・・・ッッゥ・・・」






左手で右手の甲を押さえると、右手がフツフツと熱を帯び始めた。







それと同時に背後に人の気配を感じた。






「遅かったね・・・綾」





自分の名前を呼ばれて振り返ると、そこには見たことのない男の子が立っていた。






「だ・・・れ・・?」






見たことがないのに、なぜか物凄く懐かしく・・そして物凄く愛しさを感じる・・・






「綾・・俺を忘れたの?」






その男の子は髪の毛が茶色で今風のちょっとチャラそうな子だった。






「綾は・・・今も黒髪なんだね。」






そう言って、あたしの結われた髪をほどいた。






・・・・ドクン・・ドクン・・ドクン・・・・






あたしの視線は彼の瞳に固定される。






・・あ・・・あぁ・・・あぁぁぁぁぁ・・・・





頭の中で自分の歴史が巻き戻されていった。






・・この光景は・・・この声は・・・この姿は・・・






涙がどんどん溢れてくる。