「んじゃぁ、行ってきまぁす♪」
あたしは今日から高校2年生。
真っ黒なロングのストレートヘアーを靡かせながら、自転車で駅まで向かう。
・・・今日はいるかな・・・?
自転車を駅の自転車置き場に停めて、携帯で時間を確認する。
・・7時40分・・そろそろだ・・
あ・・来たっ!!!
あたしの視線の先にはブレザー姿の背の高い男の子・・神埼 龍(かんざきりゅう)くん。
高校入学した時にこの駅で偶然見た時から・・・あたしの片思い。
いわゆる一目惚れってやつ。
彼の名前は、彼の自転車に書かれていたのをチラっと見て知って、
彼の学校は、制服に詳しい友達に教えてもらって知った。
ついでに・・・彼女がいないのも調べて知っている。
話しかけたいんだけど、そんな勇気はなく・・・
ただ、毎日同じ時間に同じ自転車置き場で神崎君を見ることが出来ればそれで満足だった。
なんて。
・・明日こそは話しかけてみる!!・・って、ダイエットみたいに明日から明日から・・と伸ばし続けてるだけなんだけど・・・。
神崎君の後ろを同じペースで同じ間隔をあけて改札まで歩く。
はっきり言ってストーカーっぽい。
でも、それでもいいの。後姿を見てるだけで・・・
改札をくぐり、神崎君とは反対側のホームへ行く。
階段を降りて向かいのホームへ目をやると、神崎君もちょうど階段から降りたところだったみたいで、同じ学校の友達と笑顔で挨拶を交わしている。
遠目でみても・・・やっぱりカッコイイ・・・
そんな事を思った瞬間、バチっと神崎君と目が合った。
あたしは思わず目をそらせてしまう。
・・うぅ・・神崎君と目が合うなんて・・・今日は朝からなんてラッキーなの?!
神崎君に一目惚れしてから丸一年・・・目が合ったのはコレが初めてのことだった。
おそるおそる神崎君に目をやると、神崎君の隣にいた友達が神崎君とあたしを交互に見て何やら言っている様子だった。
・・・もしかして。あたしの気持ちがバレテル・・??
神崎君は見る見る顔を赤くする。
それにつられてあたしまで顔が熱くなっていくのがわかった。
・・間違いない。あたしの気持ちに気付かれてるんだ・・。
恥ずかしいよ・・・
あたしが顔を伏せた時、ちょうど向こうのホームに電車が入ってきた。
あたしは俯いたまま神崎君が乗った電車を見送った。
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今朝の事を親友の美波に話した。
「もぉ!!綾ってば、どんだけ気が小さいの?!」
「だってぇ・・・カッコよすぎるんだもん・・・見てるだけで精一杯・・」
「・・向こうに気付かれてるんならさ、告っちゃいなよ♪」
「えぇ?!?!無理無理!!」
「綾ねぇ、そんなんだからいつまでも彼氏できないんだよ。綾、どんだけ可愛いと思ってんの??もったいないよ?その容姿を利用しないのは・・・」
「いやいや・・容姿云々じゃぁなくて。」
「とにかく・・明日にでもケリつけてきな?」
「ケリって・・・喧嘩じゃないんだから・・」
その日の帰り。
あたしは自転車置き場で自分の自転車を引っ張り出すのに苦労していた。
・・信じらんないっ!!なにこのマナーの悪さ・・・
ハンドルが別の自転車のハンドルに絡んでなかなか離れない。
おまけにサイドスタンドまで隣の自転車のタイヤの中に入っていたりする・・
悪戦苦闘していると、スッと右側から腕が伸びてきて自転車を持ち上げてくれた。
「あ・・ありがとうございます・・」
その腕の主を見て、心臓が一気に跳ね上がった。
・・・神崎君?!?!?!
「ココの自転車置き場はマナー悪いから・・・」
そう言うとあたしにニッコリ笑ってくれた。
「・・・えっと・・・あの・・・」
「俺、神崎龍。新海綾ちゃん・・・」
「ど、どうしてあたしの名前を?!」
「ココに書いてあるよ?」
神崎君はそう言ってあたしの自転車に書いてある名前を指さした。
「あ・・あぁ・・・なるほど・・」
「・・なんてね。実は前から知ってたんだ。」
「・・え・・??」
「あのさ・・今朝・・俺のツレがなんか・・・はしゃいじゃって・・気付いてたでしょ??」
「あ・・はぁ・・なんとなく・・・」
・・・やっぱりあたしの気持ちに気付かれてたんだ・・・
「綾ちゃん、毎朝7時40分にココにいるよね??」
「・・はい・・」
「俺、入学した時から綾ちゃんをずっと見てたんだ・・」
ちょ、ちょっと待って??
《俺、入学した時から綾ちゃんをずっと見てたんだ・・》って???
「えぇぇぇ?!?!」
「今朝のアレで俺の気持ち気付かれただろうし・・・だったら告白しようかと思って・・帰りを待ってたんだけど・・・」
「あ、あの・・・えっと・・・」
コレって・・・コレって・・・
もしかして・・・両想いだって事?!?!
「もしよかったら・・・俺の彼女になってくれないかな・・・」
コレは・・夢??
「あ・・あたしも!!ずっとずっと神崎君を見てたの!!ずっと好きだったの!!」
一年続いた片想いが、ひょんなことから両想いになった。
コレは運命に違いない・・・
ホンキでそう思った。
龍と付き合いだしてから半年。
あたしたちはまわりが羨むようなラブラブカップルだった。
初めての彼氏・・・
初めてのキスの相手・・・
初めての・・・人・・・
こんな日がいつまでも続けばどんなに幸せだろう・・・
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「龍!!おはよう!!」
あたしたちは毎朝自転車置き場で待ち合わせをしていた。
「おはよ♪綾。」
「龍のところってもうすぐ学園祭だよね??あたし、行ってもいい??」
「当たり前じゃん?ツレたちにも綾の事紹介したいし。」
「うん。ちゃんと紹介してね?彼女ですって♪」
「《かわいい彼女です》ってね?」
そう言いながら、龍があたしの右手をとって歩き出す。
「前から聞きたかったんだけど、綾のコレ・・ってアザ?」
「うん。そうなの。変な形でしょ??」
「・・サクラ・・みたいだね」
「そう。サクラみたいで結構気にいってるんだよ♪」
龍があたしの手のアザをスーーッと指で触れた時、心の奥・・・というか頭の奥が一瞬グラっと揺れて暗闇に包まれた気がした。
なに・・・今の感じは・・・。
まるで、あたしの身体が拒否反応起こしているみたいな・・・
あたしは不思議な感覚に戸惑いながらも、龍の手を握り締めた。
明日は龍の学校の学園祭。
初めて龍の学校に行くから、緊張半分、楽しみ半分・・な感じでいた。
23時を回り、急に睡魔に襲われる。
あれ・・・あたし・・・こんなに眠かったっけ??
まるで麻酔がかかったように、ストン・・と意識を手放した。
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あ・・またいつもの夢の中だ・・・
今日はカラーで・・・結構リアル・・・
町並みも見える・・・やっぱり江戸時代・・・?
「・・・綾・・・桜の花びらのようだ・・・」
「・・本当に・・・孝太郎さんのも私のも・・・桜の花びらのようです・・・」
「・・こんな最期にしてしまってすまない・・・共に・・・」
「・・・共に・・・逝きましょう・・・」
「次に生まれ変わったら・・・この桜の花びらのような火傷を目印に・・・必ず綾を・・・迎えに行くから・・・」
「私も・・・必ず貴方を・・・捜しま・・・・す・・・」
・・・ダメだよ?そんなことしちゃ・・・ダメ・・・ちゃんと二人で生きて・・・
「お願い!!二人で生きてっっっ!!!!」
・・アレ・・いつもなら目が覚める頃なのに・・・
なんで・・・?
「・・・すよ・・・」
女の人の声が聞こえる・・・
「・・・すぐ・・・・え・・ますよ・・・う・・さん・・」
誰?あたしに言ってるの??
聞こえないから、もう一度・・・もう一度言って・・・?
「もうすぐ・・・逢えますよ・・・孝太郎さん・・・」
・・もうすぐ逢えますよ・・孝太郎さん・・??
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ハッと目を覚ますと、目からは涙が溢れていた。
右手の甲のアザがツキンと痛む。
いつもの夢とは違って、とてもリアルで。
もうすぐ逢えるという言葉を聞いて、ホッとしたようなせわしく胸をかきたてるようななんともいえない気持ちがあたしを支配している。
・・今何時だろ・・
ふと時計を見て自分の目を疑った。
さっき寝る前は23時を回っていたのに・・・
今はまだ22時半だった。
なに・・?この感じ・・
あたし・・・なんか変・・・
「・・孝太郎さん・・」
急に思い出した名前を口に出した瞬間、また手の甲のアザがツキンと痛んだ。
翌朝。
いつもよりも念入りにお化粧をして、制服を着る。
龍の学園祭は、外部の高校生は制服を着ていかなくてはいけないらしい。
いつもは下ろしているだけの髪の毛を、サイドで一まとめにしてフィッシュボーンを作って、ちょっと緩めにほぐす。
髪の毛が茶色だったら、このフィッシュボーンも様になるんだろうけど・・・
あたしはどんなにまわりの友達が茶髪になろうが、パーマをかけようが、黒髪ストレートを貫いていた。
【今から向かうね!!】
そう龍にメールを入れてあたしは家を出た。
家を出て、一歩踏み出した時から、急に鼓動が速くなった。
まるで全速力で走っているかのように・・・
龍に早く会いたいからだろう・・・勝手にそう思いこんだ。
「・・綾・・早く・・・」
頭の上からそんな声も聞こえた気がした。
幻聴??
自分の身体が自分のじゃないみたいに勝手に動いているようで・・・
とにかく急がなくちゃ・・・