あたしは、静かに目を開ける。
涙で髪の毛が濡れている。
ごめんなさい・・・
あたしは、今の時代に生きています。
あたしは・・・龍が好きなんです。
今日、龍に会ってちゃんと話をしよう。
昨日のことは許すからって・・・
あたしは、学校に行く用意をしていつもの時間に家を出た。
駅の自転車置き場で龍を待つ。
7時40分・・・
龍は来なかった。
携帯に電話してみるけど、電源が切られているのか繋がらない。
家に行ってみる??
でも、もしまたサナさんといるところを目撃したら・・・
「アレ??綾ちゃん??」
あたしは呼ばれたほうに振り向いた。
「あ!やっぱり綾ちゃんだ!俺わかる??龍のツレ!!拓也ね!」
「・・・あぁ・・・わかる・・・」
龍と初めて目が合った朝、ホームで龍と一緒にいた人だった。
「あ・・あの・・龍は??」
「龍、今日はサボるって言ってたよ?」
「サボり・・?もしかして・・・サナさん?」
あたしがそう言うと拓也君は、言いづらそうな顔をした。
「あ・・---・・うんとぉ・・・」
「昨日・・・二人が一緒にいる所見ちゃってるの。」
「・・そっか。あ!でも!龍は綾ちゃんしか見てないから!!」
「・・・二人・・・キスしてたんだよ?」
拓也君はスッと目を伏せた。
「なぁ・・綾ちゃん。ちょっと学校サボれる??」
「え??」
「俺・・・綾ちゃんに話すから。ホントは龍の口から話すのが筋なんだろうけど・・・」
そうして、あたしと拓也君は駅の近くの小さな公園まで歩いた。
拓也君は公園の入り口の自販でコーヒを買って渡してくれた。
「コーヒでよかった?はい・・、あそこ座ろうか。」
ベンチに座って、お互い沈黙。
何をどう話していいか考えてるのかな・・・
あたしは、目の前で幼稚園バスを待つ親子をジッと見つめていた。
「・・あ・・えっと・・・俺は、龍と幼馴染なんだわ。」
「・・・うん。」
「つまりサナも・・・そうなわけで・・・」
「・・・・・・」
「サナのことは聞いてる?」
「龍から聞いてはいないけど・・・わかる。」
「そっか。中学の時から高校入るまで、龍とサナは付き合っててさ。高校の入ってすぐに別れてるんだけどね。」
「そうなんだ・・・」
「・・まぁ。龍が綾ちゃんに一目惚れして、それから綾ちゃんしか見れなくなったからなんだけどね。」
「・・え?!ホント?」
「ホント。」
・・・龍が、あたしを好きになったからサナさんと別れたんだ・・・
正直、ホッとしたというか、嬉しい・・・
「でも・・・サナの方が龍をなかなか諦められなくてさ。龍と別れてから、当てつけのように適当な男と付き合うようになって。そんな時に、サナが妊娠したんだ・・・」
「・・え・・・妊娠??」
あたしにはあまりにも大きな話で、缶コーヒーを持つ手に力が入る。
「そう。当時付き合ってた男の子供を妊娠したんだ・・・で、その男はばっくれちゃってさ。未成年だし、親も出て捜したんだけど、名前も何もかも嘘ばっかだったから、見つからなくて。
結局、残念な結果になったんだけど・・・」
「・・・・・・」
「その時に、サナが精神的にも参ってて、私がこんな風になったのは龍のせいだって言い出したわけ。龍の性格だから、そういうサナをほっとけなくて、たまに二人で会ってたりしたみたい・・・」
拓也君はグイッとコーヒーを飲み干して、チラっとあたしを見た。
「昨日はさ、いつまでもこのままじゃダメだって事で、龍がサナに話をしに行ったんだ。《俺には綾がいるから》って。そしたら、サナがまたダダこねだしたみたいで。私から離れないでって・・って。それでも離れるなら、キスしてって・・・」
「・・だから・・キスしたって事?」
「・・そういうことみたい。サナも本当はわかってるんだよ。龍には綾ちゃんしか見えてないって。でも、やっぱり、サナには龍しか頼れるヤツがいないからさ。」
・・だからって・・・いつまでも龍を離さないでいるなんて納得いかない・・・
「龍は・・・龍は、どうしたいんだろ・・・今日もサナさんと会ってるんでしょ?」
「龍は、綾ちゃんが好きだから。今日も、ちゃんとサナと終わるために話をつけてるんだと思う。だから、もう少し龍を待っててやって。」
拓也君はそう言うと、あたしの空の缶を取ってゴミ箱に捨てに行った。
拓也君と別れてから、あたしは学校に向かった。
サボろうかとも思ったけど、家にいてはずっと龍とサナさんの事を考えてしまうから・・・
・・でも。学校にいても結局同じだった。
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いつの間にか授業が終わり、ホームルームも終わっていた。
次々と教室からどんどん皆が帰っていく。
いつもなら友達と寄り道していくんだけど、そんな気分になれない。
教室を出て、靴を履き替え、ポケットから携帯を取り出す。
龍、もう連絡つくかな・・・
電話をかけて、また電源を切られていると余計に凹みそうでかけることが出来ない。
「綾!!」
校門を抜けてすぐにあたしを呼ぶ声がした。
振り返らなくてもわかる・・・
「どうしたの木下君。こんなところで・・・」
「・・今日龍が休みだったから、綾大丈夫かなぁとおもってさ。」
「・・・龍は今頃サナさんと話してると思うよ。」
「・・・いいのか?」
「私の為みたいだし・・・仕方ないよ。」
「・・・よくわかんねぇけど。なぁ、今から暇?」
「暇じゃない・・・ってか、出かける気分じゃないの。」
「こういう時だからこそ、パァーーっといかなくちゃ!っな?行こうぜ!!」
「ちょ・・ちょっと!!」
木下君は、強引にあたしの腕を掴み、連れて行った。
あたしの腕を掴む手が滑っていって、あたしの右手にいく。
あたしの右手の指に木下君の左手の指が絡む。
「え?!ちょっと・・・これ・・・」
「俺行ったでしょ?絶対離さないからって・・・覚えてないの?」
あまりにも真剣な木下君の顔にあたしは目を奪われた。
胸の奥から湧き出るくすぐったい、何とも言えないような感情があたしの身体中を熱くさせた。
・・・この懐かしい気持ち・・・
・・・この安心する気持ち・・・
・・・この愛おしい気持ち・・・
あたしは龍の代わりを木下君にさせている・・?
でも、龍に対しての後ろめたさがない。
前世のあたしが、木下君を受け入れてるからだろうか・・・
「・・で。なんで?」
「たまには童心に返ろう!!」
木下君につれてこられたのは動物園。
時刻は15時半。
平日だし、閉演間近だし・・で、人がほとんどいない。
「まずは象だろ?次はキリンだろ?・・・ウゲッ!!ふれあい動物園、ここから一番遠いし!!行けるかなぁ・・・あぁ・・でも、ライオンも見たいしなぁ・・・」
木下君は園マップを広げてブツブツ言っている。
その姿が、なんだか可笑しくてついつい笑ってしまう。
「そうやってる時間がもったいないよ?」
「あぁぁ!!そうだな。んじゃぁ、とりあえず、コアラから・・・」
・・・って、さっき言ってた動物じゃないのがウケル・・・
「ホラ!行くぞ!!」
そう言って差し出された手をあたしは戸惑いながらも握った。
人が少ないからか、龍がサナさんの傍に居るからかわからないけど
木下君に手を繋がれてるのが、嫌じゃない・・・
淋しさを紛らわせているみたいで申し訳ないんだけど・・・
・・・前世のちゃんとした記憶はない・・・
でも・・・この手は温かいし、懐かしい・・・それに愛しく感じる。
あたしは、思わず手をギュッと握った。
「・・綾??」
「っあ!!・・ごめん・・・」
パッと、手を離そうとすると、木下君があたしの手首を掴んで、引き寄せた。
「木・・下君・・?」
「・・・わりぃ・・・もう少し・・・このままで。」
「・・・うん・・・」
木下くんは、あたしの耳元でそう言うときつく抱きしめてきた。
木下君の心臓の辺りにあたしの顔があるから、木下くんの心音がよく聞こえる。
「・・木下君・・・心臓早いよ?」
「・・うっせぇ・・当たり前だろ?好きな女を抱きしめてるんだから・・」
「聞いていい??」
「・・ん?」
「木下君はさ・・・その・・・前世とか信じてるの?」
「・・あぁ・・実を言うとさ、はじめは信じてなかった。・・でも、学園祭の時、もし綾が俺のところに来たら・・・その時は運命を信じようって思ったんだ。」
「でも、それは前世の記憶であって・・・前世の感情であって・・・今の感情じゃないんじゃ・・」
「んー・・でも、初めて綾を見たとき、あぁ、俺、前世から好きな女のタイプ変わってないんだ・・って思ったけど?」
「そっか・・・」
「なぁ、綾?今は龍がいいかもしれないけど・・・俺は綾を待ってるからさ。それだけは覚えてて・・・」
抱きしめられたまま無言でいると、閉園を知らせる園内放送がかかった。
「・・結局、動物見れなかったな・・さて・・・帰るか♪」
木下君はまたあたしの手を握って、歩き出した。