どこで何をしてるの??
どっちから誘ったの??
何で会う必要があるの??
ドコをどう走って来たか、信号をちゃんと守ったか・・・わからない。
とにかく、龍に会いたい。
それだけだった。
龍の家に近づきちょっと冷静になってきて、美容院の予約の事を思い出してちょっとスピードを緩める。
あ・・・しまった・・・。キャンセルの電話入れなくちゃ・・
ちょうど目の前に公園が見えてきたから、公園の入り口に自転車を停めて美容院に電話を入れた。
「・・あ!すみません!!さっき予約した新海ですけど・・・用事が出来てしまって・・予約キャンセル・・・したいんですけど・・・」
そう言って、視線を自分の自転車のハンドルからちょっと上げた時。
自分の目を疑った。
電話の向こうからは、美容師さんの声がなんとなく聞こえてくる。
きっと、「わかりました」、「またお願いします」的な事を話してるんだろうけど
あたしの耳には全く入ってこない。
「・・あ・・・じゃぁ・・失礼します・・・」
会話の途中だったかもしれないけど、あたしはそのまま電話を切った。
目の前の光景から目が離せない・・・
アレは・・・どういうこと??
なんで??
あたしは咄嗟に自転車の陰にしゃがんで隠れた。
携帯を握り締めて、自分の足元一点を見つめる。
ちょっと・・待って。頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
自分がいるその場所だけが、波打ち際でサァーーーーーっと波にさらわれていくような錯覚。
ギュッと目をとじて、身体に力を入れて耐える。
そして・・・ゆっくり目を開けて、自転車のサドル越しにそっちを見た。
公園の遊具から少し離れた所のベンチに座る二人。
女の人が俯いて、肩を上下に揺らしている。
おそらく・・・泣いているんだろう。
もう一人が、その女の人の頭をポンポンと撫でる。
その手を後頭部にやると、女の人はゆっくりと顔を上げる。
何かを呟いて、その人は女の人にゆっくりと唇を重ねた・・・
女の人は抵抗する事もなく・・・下ろしていた手をその人の背中に回す。
唇が離れると、お互いをギュッと抱きしめていた。
入学した時から遠くから見てた姿だったから、あたしにはわかる。
その人が龍だって・・・
そして、その女の人がサナさんだっていうのもはっきりわかる。
・・・うっ・・っひ・・っく・・うぅ・・・
あたしは、その場で声を殺して泣いた。
いつまでもココで泣いているわけにもいかない・・・けど。
今立ち上がる勇気もない・・・
今立ち上がってしまえば、もしかしたら二人に気付かれてしまうかもしれないから。
あたし、弱いなぁ・・・。普通なら、「今のどういうこと?!?!」って二人の前に出て行くんだろうけど・・・
龍の言葉を聞くのが怖い。
ずっと片想いしてて、ソレが実って・・・幸せだったのに、今すぐにソレを壊すのが怖い。
「・・何やってんだよ。」
急に聞こえる低い声。
見上げると、木下君がいた。
「・・あ・・あの・・」
「・・アレだろ?何で黙ってんだよ?キレルところだろ??」
「でも・・・」と言いかけた時、木下君が信じられない行動を起こした。
「おい!!コラァ!龍!!お前何してんだよ?!綾いるのにも気付かねぇでさぁ!!」
「ちょっと!!木下君!!」
龍とサナさんは驚いた顔をしてコッチを見る。
龍とサナさんがあたしの存在に気付くと、二人はベンチから立ち上がりあたしの方に足を向けた。
「綾!!ごめん!!違うんだ・・・コレは・・・」
「綾ちゃん!!違うの!!私が悪いの!!」
二人して言い訳染みた事を言い出す。
二人して・・・そういうのが余計あたしを傷つけるんだ・・・
「・・何が違うの?」
もう涙で前が見えない。
「何が違うの?!違ってたら、なんでキスする必要あるの?!幼馴染なんでしょ?!変な心配しないでって二人ともあたしに言ってたじゃない?!汚いやり方しないでよ!!」
あたしは公園で遊ぶ子供たちの視線も気にしないで叫んだ。
龍があたしに駆け寄ってくる。
「聞いて、綾!キスしたことは謝る!!でも、違うんだ!!」
龍はそう言ってあたしの腕をガシっと掴んだ。
「やめてっっ!!触らないで!!」
あたしは力一杯、龍の手を振り払おうとする。
「聞けって!!」
龍の声も段々と大きくなって、あたしを掴む手の力も強くなっていった。
「痛い!!やめ・・・「おい、龍。離せって・・・」
木下君が龍の腕をひねり上げる。
「いってぇなぁ!孝太郎には関係ないだろ?!」
「関係あるんだって。ってか、お前、あの人にキスしたんだろ?ソレが綾を裏切ってるってわかってんだろ??この間は黙ってたけどさ・・・もう我慢しないから。」
「は?だから、孝太郎には関係ないだろって。さっきのキスも、訳があって・・・」
訳・・・?訳があってキスしてたってこと??どういうこと??
「私がいけないの・・・ゴメンネ綾ちゃん・・・私が・・」
サナさんもあたしの前に来て、一生懸命弁解をしようとする。
でも、それを遮ったのは木下君だった。
「どんな訳があるか知らないけど、していいこと悪い事くらいあるだろ?」
龍とサナさんは黙って俯いた。
「なぁ、龍。俺さ、昔から綾ちゃんが好きなんだわ。悪いんだけど・・・龍から奪うから。」
「昔からって・・お前らこの間の学祭で初めて会ったんだろ?!どういうことだよ・・」
木下君は左手に巻かれていたサポーターを外し、それを龍に見せた。
「・・なっ!!それって・・・綾と同じ・・・」
木下君の左手の甲にも、あたしと同じ桜の形をしたアザがくっきりとある。
前世で二人が愛し合った証・・・
「俺と綾は、昔から変な夢を見てたんだ。まぁ、信じるかどうかわからないけど・・・。
《前世》の夢を・・・」
龍もサナさんも意味がわからないという感じで木下君の話を聞いている。
「俺らは、前世で愛し合っていたのに結ばれなかった運命だったみたいで。で、このアザを残して、来世でまた愛し合おうって約束したんだよ。つまり・・・俺らがいる現世のこと。俺と綾は、前世からの知り合い・・・っていうか、恋人・・・
でも。今、綾には龍がいた・・・けど・・もう遠慮はしない。俺は前世で成し遂げられなかった事を現世で成し遂げる。」
木下君はあたしをチラっと見て、また龍に向き合った。
「綾を俺のものにするから。お前は、サナさんとうまくやってくれ。それだけだから・・じゃぁ、行くぞ!、!!」
「・・えっっ?!ちょっと・・・」
あたしは木下君に無理矢理引っ張っていかれた。
その場に立ち尽くした龍は・・・悲しそうな顔をしてあたしを見つめた。
一度サナさんの方を見て、あたしに聞こえるくらいの大きい声で・・・
「俺が好きなのは綾だけだから!!信じてくれ!!」
そう叫んだ。
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「・・あの・・ドコまで行くの??」
あたしは木下君にひっぱられたまま・・・
「・・ここまで。」
ココまで・・と連れてこられたのは駅だった。
「なぁ・・綾。龍のこと・・・「あたしは・・龍が好きだから・・」
さっきだって、「俺が好きなのは綾だけだから!!信じてくれ!!」って言ってくれたし。
サナさんとのキスは・・・やっぱり嫌だけど。
でも、なにか訳がありそうだったし。
「お前に隠れてあんな事してる男がまだ好き??」
あたしはコクンと頷く。
「・・・バカじゃね?でも・・・俺は綾を絶対諦めないから。絶対、前世の恋を現世で実らせるから・・」
木下君はそう言うと、そのまま駅に向かった。
あたしは・・・前世よりも今が大事・・・だから。
龍が・・・好きだもん。
ツキンと痛む右手を押さえながら木下君の背中を見つめた。
その日。
龍から、電話やメールが鳴りっぱなしだった。
電話に出て、ちゃんと話を聞けばよかったんだろうけど、あのキスの映像があたしを素直にさせなかった。
なんで・・・サナさんにキスしたの??
なんで抱きしめたの??
「訳があるんだ」って・・・どんな訳??
学園祭の時の龍の顔も頭をよぎる。
あんな顔してたくせに・・・それでもあたしを好きってどういうこと??
明日・・・あたし龍の顔見れるかな・・・
普通に話せる自信ない・・・
そんな事を思いながらあたしは眠りについた。
あ・・・また、夢・・・
いつもの夢の風景と同じだ・・・
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「孝太郎さん!あなた、女中と逢瀬を重ねているというのは本当ですか??」
「だ、誰がそんな事を・・・」
「何度も目撃されてるんですよ?」
「そんな馬鹿な・・・ただの噂話ですよ」
「噂話でも何でも、その女中は今日限りで出ていかせますから・・・」
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「ごめん・・綾。俺たちの事が知られてしまった・・・」
「仕方ないです。いつかは知られてしまう事・・・」
「孝太郎さん・・・実は私・・・子を授かりました・・・」
「子を??なぜ早くに言わない・・・それだったら尚更、一緒にここを出よう。」
「・・・孝太郎さん・・・」
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その後、二人は家の人に見つかってしまう。
無理矢理引き離される二人・・・
泣き叫ぶ女の人・・・
男の人が、声を出さずに何かを伝えようとしている。
「いっ・しょ・に・し・の・う」
うんうんと泣きながら頷く女の人。
それから、いつもの夢の続きへと繋がっていく・・・
納屋のような中で、二人の愛の証を手につけて、お互いに薬を飲む。
苦しいはずなのに二人は優しく微笑んだまま・・・
お腹の子供を守るように・・・二人で抱き合って・・・
幸せそうに息を引き取った・・・
「生まれ変わったら、必ず・・・」
そう誓って・・・