「・・解った??」
木下君はニッコリ笑った。
「・・理解はしたけど・・」
「・・けど?」
「じゃぁ、これからどうしたらいいの??」
木下君はハァーーーとため息をつく。
「全然解ってないじゃんか。前世で俺たちは引き離されそうになったから、心中したんだろ?転生して今度は一緒になりましょうって約束してさ。だったら、俺たちは必然的に一緒にならなくちゃいけない運命なんじゃねぇの??」
「えぇぇぇぇ?!だって・・あたしには彼氏いるし・・・」
「・・・男いるの?マジで?んじゃぁ、すぐに別れてよ・・ってか、きっと別れる運命だと思うよ?だって、綾には俺がいるんだし♪」
「ちょ、ちょっと・・そんなぁ・・・」
「前世の俺たちの想いは強いんだよ?間違いなく俺と綾は一緒になるって決まってるの!!」
その時あたしの携帯が鳴った。
龍からだ!!
「あ・・ごめん。今から彼氏のクラス行かなくちゃいけないから」
「了解♪でも、覚えておいてよ?綾は絶対俺のものになるって事!!」
あたしは、木下君のそんな言葉も無視して図書室を出た。
前世・・・?
転生・・・?
そんな話・・・あるの??
でも。
はじめて木下君を見た時のあの気持ち・・・
やっと逢えた・・・って気持ち、
愛しくて仕方ない・・・って気持ちは確かにあった。
あたしは未だにドキドキする胸をギュッと押さえながら、龍の元に急いだ。
「綾!!」
龍のクラスに着いた時、教室の前の龍があたしを見つけて微笑む。
・・龍・・やっぱりあたしは龍が好き・・・
クラスの子がいるのにも関わらず、あたしは龍に抱きついた。
「・・ちょ・・どした?なんかあった??」
「ううん、なんでもないよ?龍に会えて嬉しいだけ・・・」
龍はあたしの髪をそっと撫でてくれる。
前世がどうとか・・・今のあたしには関係ない。
《現世》のあたしには龍しかいないんだから・・・
「あれ?龍、その子彼女??」
あれ・・・この声は・・・。その声に振り返るとそこには木下君がいた。
「おぅ、孝太郎!そうそう、俺の彼女♪」
「ふぅ~~~ん・・・そうなんだ?さっきはどーーーも♪綾ちゃん♪」
「・・・・・・」
「何?お前ら知り合いなの??」
龍はあたしと木下君の顔を交互に見ながら言う。
「龍、あの・・知り合いっていうか、さっき初めて会ったばかりなの・・・」
「おい・・孝太郎・・俺の彼女に手出すなよ??」
「・・・さっきっていうか・・・出会ったのは200年くらい前なんだけどね・・・」
木下君がボソっと呟いた。
「あぁ!!!!龍!!早く色々案内してよ!!なんかお腹も空いてきちゃったし!!」
あたしは龍と木下君の間に入ってなんとか誤魔化そうとした。
「そうだな♪んじゃぁ、まずは俺のクラスから見てく??」
「うん♪そうする!!」
あたしは龍の腕に絡みつくようにして教室に入った。
龍と木下くんがまさか友達だなんて・・・
コレも運命??
木下君に龍との事を邪魔されたくない・・・
あたしと龍はずっと手を繋いで色んなクラスを回った。
普通男の子って照れて手を繋ぐのとか嫌がるんだろうけど、龍はそんなこともなく。
むしろ、あたしをみんなに見せびらかすようにしてくれた。
擦れ違う友達たちに「あれ?龍、彼女??」って聞かれると、
「可愛いだろ?俺の彼女♪」と繋いだ手を見せる。
龍は学校で人気があるようで、どのクラスに行っても声を掛けられた。
特に女の子からの視線が・・・痛い。
「うわぁ・・龍くん、彼女いたんだ・・ショック」
「あの人、龍先輩の彼女・・・??」
女の子たちの悲鳴がかすかに聞こえるし・・・
「あ、綾!喉乾いただろ?ちょっとココで待ってて!」
龍はそう言うと、出店に向かって行った。
あたしは、その背中を見ながら中庭の階段にちょこんと座る。
ちょっと歩くだけで、友達が龍に声を賭け、まわりにいる女の子たちは目をハートにして龍を見つめる。
あたし・・・すごい人と付き合ってるんだ・・・嬉しいような・・・心配なような・・・
複雑・・・
「龍、めちゃくちゃモテルからね♪」
あたしの頭上から聞こえる声。
振り返らなくてもわかる・・・木下君だ。
「まぁ、俺もモテルんだけどね?」
「それは別に聞いてないんだけど?・・それより・・龍・・・そんなにモテルの?」
「そりゃぁもう!!入学した頃から、学校行事がある度に告白告白・・だし。でもずっとその告白を断ってたんだよ。好きな人いるからって。その好きな子が彼女になったわけなんだけど・・・」
「・・そういうの嬉しいかも・・・」
「でも・・・安心できないよ?龍、中学の時の年上の彼女の事をたまに話すし・・それに・・・近々俺が龍から綾を奪うから♪」
・・・中学の時の年上の彼女??
一気にテンションが下がる・・・
「ねぇ、木下君。その年上の彼女って・・今も連絡取ってるのかなぁ??」
「うーーーん・・・そういうのは自分で聞いたら??ほら、龍来たよ?」
前を見ると、人ごみの中から頭一つ分出た龍の顔が見えた。
「龍!!!」 あたしは龍に大きく手を振る。
コッチに近づくにつれ、龍の姿がはっきりわかるようになる。
両手にペットボトルを持って、左下に視線を向けながら笑って誰かと話している姿。
その左下にいる人を見て、あたしは大きく振っていた手を下げてギュっと握り締めた。
「あららら・・・龍ったら・・・」
木下君がボソッと言う。
あたしは龍をジッと見つめるしか出来なかった。
龍がその左にいる人に何かを言ったようで、その人がニッコリと笑ってあたしを見た。
・・・すごく綺麗な人・・・誰なんだろう・・・どう見ても龍と親しい関係・・・
さっき木下君が言っていた《年上の元カノ》??
あたしが言うのもなんだけど・・・龍とその人・・・二人の雰囲気があってる気がする・・。
二人がいることが自然で・・・なんか、嫌な気分になってきた・・・
「お?孝太郎も来てたのか??」
「うん、さっきね。綾ちゃんが一人で座ってたからさ。・・ってか、誰?その人。」
木下君はあたしが聞きたい事をサラっと聞いてくれた。
「あ・・コイツは・・俺の幼馴染で上原サナ。俺らの2つ上でココの卒業生。今日の学祭に呼んだら来てくれてさ!」
「こんにちは。」
サナさんは嫌味のない優しい笑顔で挨拶する。
「こ、こんにちは・・・」
それに比べ、あたしは・・・目線も合わせないままボソっと挨拶・・・
「龍の彼女さんね??ごめんね・・・龍と歩いて来たからビックリしたでしょ??勘違いしないでね♪龍の事は何とも思ってないから♪」
「・・え・・?」
「《心配してます》って顔に書いてあるよ?」
あたしは両手で顔を覆った。
「ねぇ、龍。あたしたちただの幼馴染なだけよね。あたしはもういいから彼女と一緒に回ってあげてね♪」
「え・・サナ一人で学祭回るのか?」
「先生に会ってくるから♪」サナさんはそう言って、校舎に入って行った。
「ねぇ、りゅ・・・」
あたしは龍を見て、龍の意識があたしではなく違う方向に向いているのに気付いた。
さっきまでの楽しそうな龍の表情ではなく、悲しい表情・・・
《ただの幼馴染》と言われたからそんな顔をするの?
あたしがもしこの場に居なかったら、サナさんと・・・?
でも、龍はあたしを《俺の可愛い彼女》って言ってくれたし・・・
みんなに見せびらかすようにしてくれたし・・・
きっと、ただ単にあたしの勘違いだ。思い過ごしに違いない。
そう思い込もうとした矢先に木下君が爆弾を投下した・・・
「なぁ・・・龍。サナさんって・・・お前がよく話してる年上の元カノ??」
「は?なんで急に??」
龍はチラっとあたしに視線を向けて笑って誤魔化したけど、あたしは一瞬の龍の表情を見逃さなかった。
「なんでって、なんか二人雰囲気が良かったから、そうなのかなぁって思ってさ。」
木下君は・・・最低だ。
あたしがココにいるのに、よくそんなこと聞ける・・・
でも。龍の答えが聞きたい・・・
龍はあたしの顔を見て、「違うよ?ただの幼馴染だし♪綾、変な心配すんなよ??」
そう言うと、あたしの腰をグッと引き寄せた。
「う・・うん。大丈夫・・・」あたしは流の袖をギュッと掴んだ。
「コーーーーラ・・・俺の前でいちゃつき禁止・・・」
「あ・・わりぃ・・まだ孝太郎いたんだ??」
龍は悪戯っこのように木下君に言った。
それから私たちはまた校舎に入った。
さっきと違うのは・・・龍の視線が何かを探すようにアチコチに動いているのと・・・
さっきまで繋がれていた手が・・・・離れていること・・・
「・・龍・・」
あたしは龍の袖をギュっと掴んだ。
龍は、あっ!という顔をしてすぐにあたしの右手を握ってくれる。
龍のこういう優しさがあたしは好きなんだ。
サナさんのことは、昔の事・・・今はあたしが彼女なんだから・・・
龍もあたしに一年片想いしてくれてたんだから・・・
不安になる必要・・・ないよね??
「ねぇ、龍・・・」
「ん?」
「龍は・・・あたしの事好き?」
・・・こういう不安な時はちゃんと聞いておきたい・・・
龍は繋いだ手に力を込めて言った。
「好きだよ、綾」
その言葉だけであたしは十分。
「あたしも・・龍が好き!!」
このまま・・・ずっと。
すっと・・・このまま続きますように・・・
学園祭も終わり、あたしの頭の中から《サナさん》の存在は消えていた。
龍とは毎日会っていたし、龍のあたしに対する気持ちも確実なものだったから。
学校帰り。
あたしは、CDショップに一人で寄っていた。
今日は龍は昔の友達と遊ぶ約束しているらしく、会えなくて・・・
久々に一人でブラブラできるし、美容院にでも行こうかなぁ。
前に龍が「綾って、髪染めないんだ?明るい色も似合いそうだけど?」って言っていたのを思い出した。
真っ黒なロングのストレートヘアー。
気に入っている訳じゃないんだけど・・・
イメチェンしたら龍驚くかなぁ・・・喜んでくれるかなぁ・・・
よし!!
あたしは、すぐに美容院に予約を入れた。
「あ!綾!!」
呼ばれたほうに振り返ると、木下君が友達といた。
「・・あ・・木下君・・」
「そんな露骨に嫌な顔しないでよ。ってか、一人なの?龍は??」
「龍は、今日、昔の友達と遊ぶって・・・」
「・・・昔の友達・・・?」
木下君は、視線を右にそらしてから、「あ!!そうそう!そんな事言ってたわぁ♪なぁ?」と、隣にいた友達に同意を求め、明らかに何かを隠している様子で言った。
「・・・違うの?」
「なにが?」
「龍・・・昔の友達と遊んでるんじゃないの??」
木下君に一歩詰め寄って、問いただす。
木下君は、きっと、嘘をつけない人なんだろう。
目が泳いでいるのがよくわかる。