「・・・綾・・・俺にはお前しかいない・・・」
「・・・孝太郎さん・・・私もです・・・私も貴方しか・・・」
「少し痛むけど我慢してくれ・・・コレは俺と綾の愛の証だ・・・」
ジュゥ・・ッ・・ッッ
「・・・っっツ・・・・嬉しい・・・孝太郎さん・・・」
「・・・綾・・・桜の花びらのようだ・・・」
「・・本当に・・・孝太郎さんのも私のも・・・桜の花びらのようです・・・」
「・・こんな最期にしてしまってすまない・・・共に・・・」
「・・・共に・・・逝きましょう・・・」
「次に生まれ変わったら・・・この桜の花びらのような火傷を目印に・・・必ず綾を・・・迎えに行くから・・・」
「私も・・・必ず貴方を・・・捜しま・・・・す・・・」
!!!!!!!!
ガバっと布団を蹴りあげて起き上がる。
まただ・・・また、同じ夢・・・。
「・・・ッッゥ・・・」
この夢は小学校に入る頃から定期的に見るようになった。
そして、この夢を見た後はいつもあたしの右手の甲のアザがチクチクと痛む。
皮膚科で診て貰っても、《単なるアザ》という診断しかされない。
気になるようでしたらレーザーで消せますよ・・と言われるけど・・。
なぜだか、このアザは消したいと思わなかった。
夢の中の二人・・・
顔は見えないけど、おそらく恋人同士。
着物の映像が見えるから、おそらく江戸時代とか・・・その辺だと思う。
男の人が火鉢で熱した何かを女の人と自分の手の甲に焼き付ける。
そして・・・ふたりはお互いに薬を飲ませて息絶える・・・という内容。
きっと小さい頃に見た時代劇の映像が、自分の手の甲のアザとリンクして、17歳になった今でもまるで自分が経験したかのような錯覚で見てる夢だろう。
ずっとそう思っていた。
「んじゃぁ、行ってきまぁす♪」
あたしは今日から高校2年生。
真っ黒なロングのストレートヘアーを靡かせながら、自転車で駅まで向かう。
・・・今日はいるかな・・・?
自転車を駅の自転車置き場に停めて、携帯で時間を確認する。
・・7時40分・・そろそろだ・・
あ・・来たっ!!!
あたしの視線の先にはブレザー姿の背の高い男の子・・神埼 龍(かんざきりゅう)くん。
高校入学した時にこの駅で偶然見た時から・・・あたしの片思い。
いわゆる一目惚れってやつ。
彼の名前は、彼の自転車に書かれていたのをチラっと見て知って、
彼の学校は、制服に詳しい友達に教えてもらって知った。
ついでに・・・彼女がいないのも調べて知っている。
話しかけたいんだけど、そんな勇気はなく・・・
ただ、毎日同じ時間に同じ自転車置き場で神崎君を見ることが出来ればそれで満足だった。
なんて。
・・明日こそは話しかけてみる!!・・って、ダイエットみたいに明日から明日から・・と伸ばし続けてるだけなんだけど・・・。
神崎君の後ろを同じペースで同じ間隔をあけて改札まで歩く。
はっきり言ってストーカーっぽい。
でも、それでもいいの。後姿を見てるだけで・・・
改札をくぐり、神崎君とは反対側のホームへ行く。
階段を降りて向かいのホームへ目をやると、神崎君もちょうど階段から降りたところだったみたいで、同じ学校の友達と笑顔で挨拶を交わしている。
遠目でみても・・・やっぱりカッコイイ・・・
そんな事を思った瞬間、バチっと神崎君と目が合った。
あたしは思わず目をそらせてしまう。
・・うぅ・・神崎君と目が合うなんて・・・今日は朝からなんてラッキーなの?!
神崎君に一目惚れしてから丸一年・・・目が合ったのはコレが初めてのことだった。
おそるおそる神崎君に目をやると、神崎君の隣にいた友達が神崎君とあたしを交互に見て何やら言っている様子だった。
・・・もしかして。あたしの気持ちがバレテル・・??
神崎君は見る見る顔を赤くする。
それにつられてあたしまで顔が熱くなっていくのがわかった。
・・間違いない。あたしの気持ちに気付かれてるんだ・・。
恥ずかしいよ・・・
あたしが顔を伏せた時、ちょうど向こうのホームに電車が入ってきた。
あたしは俯いたまま神崎君が乗った電車を見送った。
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今朝の事を親友の美波に話した。
「もぉ!!綾ってば、どんだけ気が小さいの?!」
「だってぇ・・・カッコよすぎるんだもん・・・見てるだけで精一杯・・」
「・・向こうに気付かれてるんならさ、告っちゃいなよ♪」
「えぇ?!?!無理無理!!」
「綾ねぇ、そんなんだからいつまでも彼氏できないんだよ。綾、どんだけ可愛いと思ってんの??もったいないよ?その容姿を利用しないのは・・・」
「いやいや・・容姿云々じゃぁなくて。」
「とにかく・・明日にでもケリつけてきな?」
「ケリって・・・喧嘩じゃないんだから・・」
その日の帰り。
あたしは自転車置き場で自分の自転車を引っ張り出すのに苦労していた。
・・信じらんないっ!!なにこのマナーの悪さ・・・
ハンドルが別の自転車のハンドルに絡んでなかなか離れない。
おまけにサイドスタンドまで隣の自転車のタイヤの中に入っていたりする・・
悪戦苦闘していると、スッと右側から腕が伸びてきて自転車を持ち上げてくれた。
「あ・・ありがとうございます・・」
その腕の主を見て、心臓が一気に跳ね上がった。
・・・神崎君?!?!?!
「ココの自転車置き場はマナー悪いから・・・」
そう言うとあたしにニッコリ笑ってくれた。
「・・・えっと・・・あの・・・」
「俺、神崎龍。新海綾ちゃん・・・」
「ど、どうしてあたしの名前を?!」
「ココに書いてあるよ?」
神崎君はそう言ってあたしの自転車に書いてある名前を指さした。
「あ・・あぁ・・・なるほど・・」
「・・なんてね。実は前から知ってたんだ。」
「・・え・・??」
「あのさ・・今朝・・俺のツレがなんか・・・はしゃいじゃって・・気付いてたでしょ??」
「あ・・はぁ・・なんとなく・・・」
・・・やっぱりあたしの気持ちに気付かれてたんだ・・・
「綾ちゃん、毎朝7時40分にココにいるよね??」
「・・はい・・」
「俺、入学した時から綾ちゃんをずっと見てたんだ・・」
ちょ、ちょっと待って??
《俺、入学した時から綾ちゃんをずっと見てたんだ・・》って???
「えぇぇぇ?!?!」
「今朝のアレで俺の気持ち気付かれただろうし・・・だったら告白しようかと思って・・帰りを待ってたんだけど・・・」
「あ、あの・・・えっと・・・」
コレって・・・コレって・・・
もしかして・・・両想いだって事?!?!
「もしよかったら・・・俺の彼女になってくれないかな・・・」
コレは・・夢??
「あ・・あたしも!!ずっとずっと神崎君を見てたの!!ずっと好きだったの!!」
一年続いた片想いが、ひょんなことから両想いになった。
コレは運命に違いない・・・
ホンキでそう思った。