「遅かったね・・・綾」





自分の名前を呼ばれて振り返ると、そこには見たことのない男の子が立っていた。






「だ・・・れ・・?」






見たことがないのに、なぜか物凄く懐かしく・・そして物凄く愛しさを感じる・・・






「綾・・俺を忘れたの?」






その男の子は髪の毛が茶色で今風のちょっとチャラそうな子だった。






「綾は・・・今も黒髪なんだね。」






そう言って、あたしの結われた髪をほどいた。






・・・・ドクン・・ドクン・・ドクン・・・・






あたしの視線は彼の瞳に固定される。






・・あ・・・あぁ・・・あぁぁぁぁぁ・・・・





頭の中で自分の歴史が巻き戻されていった。






・・この光景は・・・この声は・・・この姿は・・・






涙がどんどん溢れてくる。
















「・・孝太郎さん・・」





「やっと思い出してくれた??綾・・」





「はい・・やっと・・・やっと・・・逢えました。」





「俺は、ずっと綾を捜していたんだよ?当時の記憶を持ったまま転生したみたいだから・・」




・・あたしは、自分の意思とは違うところでの話を第三者のように自分の身体の中から聞くしか出来なかった。





孝太郎さんはそっとあたしの右手を取り、チュっとソコに口付けた。





「コレ・・痛かっただろう?ごめんな・・・」





あたしは横に首を振る。





「これくらい平気です。孝太郎さんと離れるくらいなら・・・」





「俺たちの想いは通じたんだね・・・生まれ変わっても捜し出してみせる・・見つけてみせるって。」





あたしはギュっと孝太郎さんに抱きしめられた。





・・なに・・この身体のそこから溢れるような愛しさは・・・





涙が止まらない・・・






「もう・・私を離さないでください・・・絶対に・・・離さないでください・・」





あたしの中の誰かがそう告げると、あたしの意識はパッと現実に戻っていった。









さっきまでの懐かしい香りは消え、今は香水の爽やかな香りがあたしを包む。





「・・綾。今の理解できてる??」





「え・・?えぇぇぇぇ?!」





あたしは抱きしめられていた事を思い出して、彼の胸をドンと押した。





「あ・・あの・・えっと・・・」





「フッ・・理解できてないんだ?。あぁ、俺、木下孝太郎ね。」





「あの・・どういうことか全く理解できてないんですけど・・」





「そっか・・綾にはちゃんとした記憶がないんだ?」






木下君はうーーんと考える素振りをして、「そっか、そっか」を繰り返す。





「しゃぁーないから、一から説明するわ・・・」






木下君は、あたしが見ていた夢の話を自分もよく見ていた事、





その夢の中の二人が木下君とあたしの前世である事、





その二人が転生して、自分たちを出逢わせたという事を話してくれた。






あたしは半信半疑だったけど、それを何より決定付けたのが・・・





二人の手の甲にあるサクラに似た火傷の痕だった。







「・・解った??」






木下君はニッコリ笑った。






「・・理解はしたけど・・」





「・・けど?」





「じゃぁ、これからどうしたらいいの??」





木下君はハァーーーとため息をつく。





「全然解ってないじゃんか。前世で俺たちは引き離されそうになったから、心中したんだろ?転生して今度は一緒になりましょうって約束してさ。だったら、俺たちは必然的に一緒にならなくちゃいけない運命なんじゃねぇの??」





「えぇぇぇぇ?!だって・・あたしには彼氏いるし・・・」





「・・・男いるの?マジで?んじゃぁ、すぐに別れてよ・・ってか、きっと別れる運命だと思うよ?だって、綾には俺がいるんだし♪」






「ちょ、ちょっと・・そんなぁ・・・」






「前世の俺たちの想いは強いんだよ?間違いなく俺と綾は一緒になるって決まってるの!!」









その時あたしの携帯が鳴った。





龍からだ!!





「あ・・ごめん。今から彼氏のクラス行かなくちゃいけないから」





「了解♪でも、覚えておいてよ?綾は絶対俺のものになるって事!!」






あたしは、木下君のそんな言葉も無視して図書室を出た。






前世・・・?





転生・・・?






そんな話・・・あるの??






でも。






はじめて木下君を見た時のあの気持ち・・・






やっと逢えた・・・って気持ち、





愛しくて仕方ない・・・って気持ちは確かにあった。







あたしは未だにドキドキする胸をギュッと押さえながら、龍の元に急いだ。








「綾!!」






龍のクラスに着いた時、教室の前の龍があたしを見つけて微笑む。






・・龍・・やっぱりあたしは龍が好き・・・






クラスの子がいるのにも関わらず、あたしは龍に抱きついた。







「・・ちょ・・どした?なんかあった??」







「ううん、なんでもないよ?龍に会えて嬉しいだけ・・・」







龍はあたしの髪をそっと撫でてくれる。







前世がどうとか・・・今のあたしには関係ない。







《現世》のあたしには龍しかいないんだから・・・







「あれ?龍、その子彼女??」







あれ・・・この声は・・・。その声に振り返るとそこには木下君がいた。







「おぅ、孝太郎!そうそう、俺の彼女♪」







「ふぅ~~~ん・・・そうなんだ?さっきはどーーーも♪綾ちゃん♪」







「・・・・・・」







「何?お前ら知り合いなの??」






龍はあたしと木下君の顔を交互に見ながら言う。







「龍、あの・・知り合いっていうか、さっき初めて会ったばかりなの・・・」







「おい・・孝太郎・・俺の彼女に手出すなよ??」







「・・・さっきっていうか・・・出会ったのは200年くらい前なんだけどね・・・」






木下君がボソっと呟いた。






「あぁ!!!!龍!!早く色々案内してよ!!なんかお腹も空いてきちゃったし!!」





あたしは龍と木下君の間に入ってなんとか誤魔化そうとした。







「そうだな♪んじゃぁ、まずは俺のクラスから見てく??」







「うん♪そうする!!」







あたしは龍の腕に絡みつくようにして教室に入った。





龍と木下くんがまさか友達だなんて・・・







コレも運命??







木下君に龍との事を邪魔されたくない・・・







あたしと龍はずっと手を繋いで色んなクラスを回った。







普通男の子って照れて手を繋ぐのとか嫌がるんだろうけど、龍はそんなこともなく。







むしろ、あたしをみんなに見せびらかすようにしてくれた。







擦れ違う友達たちに「あれ?龍、彼女??」って聞かれると、







「可愛いだろ?俺の彼女♪」と繋いだ手を見せる。







龍は学校で人気があるようで、どのクラスに行っても声を掛けられた。






特に女の子からの視線が・・・痛い。






「うわぁ・・龍くん、彼女いたんだ・・ショック」






「あの人、龍先輩の彼女・・・??」






女の子たちの悲鳴がかすかに聞こえるし・・・







「あ、綾!喉乾いただろ?ちょっとココで待ってて!」






龍はそう言うと、出店に向かって行った。






あたしは、その背中を見ながら中庭の階段にちょこんと座る。







ちょっと歩くだけで、友達が龍に声を賭け、まわりにいる女の子たちは目をハートにして龍を見つめる。






あたし・・・すごい人と付き合ってるんだ・・・嬉しいような・・・心配なような・・・
複雑・・・








「龍、めちゃくちゃモテルからね♪」






あたしの頭上から聞こえる声。






振り返らなくてもわかる・・・木下君だ。







「まぁ、俺もモテルんだけどね?」







「それは別に聞いてないんだけど?・・それより・・龍・・・そんなにモテルの?」







「そりゃぁもう!!入学した頃から、学校行事がある度に告白告白・・だし。でもずっとその告白を断ってたんだよ。好きな人いるからって。その好きな子が彼女になったわけなんだけど・・・」






「・・そういうの嬉しいかも・・・」






「でも・・・安心できないよ?龍、中学の時の年上の彼女の事をたまに話すし・・それに・・・近々俺が龍から綾を奪うから♪」






・・・中学の時の年上の彼女??






一気にテンションが下がる・・・






「ねぇ、木下君。その年上の彼女って・・今も連絡取ってるのかなぁ??」






「うーーーん・・・そういうのは自分で聞いたら??ほら、龍来たよ?」







前を見ると、人ごみの中から頭一つ分出た龍の顔が見えた。






「龍!!!」 あたしは龍に大きく手を振る。







コッチに近づくにつれ、龍の姿がはっきりわかるようになる。







両手にペットボトルを持って、左下に視線を向けながら笑って誰かと話している姿。







その左下にいる人を見て、あたしは大きく振っていた手を下げてギュっと握り締めた。





「あららら・・・龍ったら・・・」





木下君がボソッと言う。





あたしは龍をジッと見つめるしか出来なかった。






龍がその左にいる人に何かを言ったようで、その人がニッコリと笑ってあたしを見た。






・・・すごく綺麗な人・・・誰なんだろう・・・どう見ても龍と親しい関係・・・






さっき木下君が言っていた《年上の元カノ》??






あたしが言うのもなんだけど・・・龍とその人・・・二人の雰囲気があってる気がする・・。




二人がいることが自然で・・・なんか、嫌な気分になってきた・・・







「お?孝太郎も来てたのか??」





「うん、さっきね。綾ちゃんが一人で座ってたからさ。・・ってか、誰?その人。」





木下君はあたしが聞きたい事をサラっと聞いてくれた。





「あ・・コイツは・・俺の幼馴染で上原サナ。俺らの2つ上でココの卒業生。今日の学祭に呼んだら来てくれてさ!」





「こんにちは。」





サナさんは嫌味のない優しい笑顔で挨拶する。





「こ、こんにちは・・・」






それに比べ、あたしは・・・目線も合わせないままボソっと挨拶・・・





「龍の彼女さんね??ごめんね・・・龍と歩いて来たからビックリしたでしょ??勘違いしないでね♪龍の事は何とも思ってないから♪」





「・・え・・?」





「《心配してます》って顔に書いてあるよ?」





あたしは両手で顔を覆った。





「ねぇ、龍。あたしたちただの幼馴染なだけよね。あたしはもういいから彼女と一緒に回ってあげてね♪」




「え・・サナ一人で学祭回るのか?」





「先生に会ってくるから♪」サナさんはそう言って、校舎に入って行った。