明日は龍の学校の学園祭。
初めて龍の学校に行くから、緊張半分、楽しみ半分・・な感じでいた。
23時を回り、急に睡魔に襲われる。
あれ・・・あたし・・・こんなに眠かったっけ??
まるで麻酔がかかったように、ストン・・と意識を手放した。
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あ・・またいつもの夢の中だ・・・
今日はカラーで・・・結構リアル・・・
町並みも見える・・・やっぱり江戸時代・・・?
「・・・綾・・・桜の花びらのようだ・・・」
「・・本当に・・・孝太郎さんのも私のも・・・桜の花びらのようです・・・」
「・・こんな最期にしてしまってすまない・・・共に・・・」
「・・・共に・・・逝きましょう・・・」
「次に生まれ変わったら・・・この桜の花びらのような火傷を目印に・・・必ず綾を・・・迎えに行くから・・・」
「私も・・・必ず貴方を・・・捜しま・・・・す・・・」
・・・ダメだよ?そんなことしちゃ・・・ダメ・・・ちゃんと二人で生きて・・・
「お願い!!二人で生きてっっっ!!!!」
・・アレ・・いつもなら目が覚める頃なのに・・・
なんで・・・?
「・・・すよ・・・」
女の人の声が聞こえる・・・
「・・・すぐ・・・・え・・ますよ・・・う・・さん・・」
誰?あたしに言ってるの??
聞こえないから、もう一度・・・もう一度言って・・・?
「もうすぐ・・・逢えますよ・・・孝太郎さん・・・」
・・もうすぐ逢えますよ・・孝太郎さん・・??
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ハッと目を覚ますと、目からは涙が溢れていた。
右手の甲のアザがツキンと痛む。
いつもの夢とは違って、とてもリアルで。
もうすぐ逢えるという言葉を聞いて、ホッとしたようなせわしく胸をかきたてるようななんともいえない気持ちがあたしを支配している。
・・今何時だろ・・
ふと時計を見て自分の目を疑った。
さっき寝る前は23時を回っていたのに・・・
今はまだ22時半だった。
なに・・?この感じ・・
あたし・・・なんか変・・・
「・・孝太郎さん・・」
急に思い出した名前を口に出した瞬間、また手の甲のアザがツキンと痛んだ。
翌朝。
いつもよりも念入りにお化粧をして、制服を着る。
龍の学園祭は、外部の高校生は制服を着ていかなくてはいけないらしい。
いつもは下ろしているだけの髪の毛を、サイドで一まとめにしてフィッシュボーンを作って、ちょっと緩めにほぐす。
髪の毛が茶色だったら、このフィッシュボーンも様になるんだろうけど・・・
あたしはどんなにまわりの友達が茶髪になろうが、パーマをかけようが、黒髪ストレートを貫いていた。
【今から向かうね!!】
そう龍にメールを入れてあたしは家を出た。
家を出て、一歩踏み出した時から、急に鼓動が速くなった。
まるで全速力で走っているかのように・・・
龍に早く会いたいからだろう・・・勝手にそう思いこんだ。
「・・綾・・早く・・・」
頭の上からそんな声も聞こえた気がした。
幻聴??
自分の身体が自分のじゃないみたいに勝手に動いているようで・・・
とにかく急がなくちゃ・・・
龍の学校に近づくにつれ、鼓動はさっきよりも速くなっていった。
胸の奥から湧き上がった鼓動が、喉の奥にも達し、耳からもドクドクと聞こえてくる。
あと少し・・・
あと少しで・・・貴方に逢える・・・
自分の感情とは違う感情が胸の奥から聞こえてくる。
・・なんだろ・・・昨日からあたしおかしい・・
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龍の学校の門をくぐり、人ごみを避けながら校舎の入り口にたどり着く。
・・あ。龍にメールしないと・・。
ポケットから携帯を取り出して、
【今から校舎に入るよ♪クラスに行けばいいかな?】と、メールを入れる。
するとすぐに返信があった。
【今、手離せないから、少しブラブラしてて】
【了解です♪】
あたしはそう返信して、何を思ったか図書室を探した。
初めて来る学校なのに図書室の場所がなんとなくわかる。
デジャヴ??
・・違う。誰かに呼ばれているような・・・引き寄せられているような・・・
そんな感じだった。
図書室に近づくにつれ、自分じゃない感情があたしの感情を支配する・・・
《・・もうすぐ逢える・・孝太郎さん・・・》
・・孝太郎さん??夢の人・・・??
そして、図書室のドアの前に立つと身体の力が抜けていくような気がした。
ガラッッ・・・
ドアを開けた瞬間に、懐かしいような求めていたような香りに包まれた。
あたしはドアをそっと閉めて、図書室をぐるっと見渡した。
学園祭だから、人がいるわけもないのに・・・
何してるんだろう・・あたし。龍のクラスに向かおう・・そう思った時、
右手のアザがツキンツキンと痛み出した。
「・・・ッッゥ・・・」
左手で右手の甲を押さえると、右手がフツフツと熱を帯び始めた。
それと同時に背後に人の気配を感じた。
「遅かったね・・・綾」
自分の名前を呼ばれて振り返ると、そこには見たことのない男の子が立っていた。
「だ・・・れ・・?」
見たことがないのに、なぜか物凄く懐かしく・・そして物凄く愛しさを感じる・・・
「綾・・俺を忘れたの?」
その男の子は髪の毛が茶色で今風のちょっとチャラそうな子だった。
「綾は・・・今も黒髪なんだね。」
そう言って、あたしの結われた髪をほどいた。
・・・・ドクン・・ドクン・・ドクン・・・・
あたしの視線は彼の瞳に固定される。
・・あ・・・あぁ・・・あぁぁぁぁぁ・・・・
頭の中で自分の歴史が巻き戻されていった。
・・この光景は・・・この声は・・・この姿は・・・
涙がどんどん溢れてくる。
「・・孝太郎さん・・」
「やっと思い出してくれた??綾・・」
「はい・・やっと・・・やっと・・・逢えました。」
「俺は、ずっと綾を捜していたんだよ?当時の記憶を持ったまま転生したみたいだから・・」
・・あたしは、自分の意思とは違うところでの話を第三者のように自分の身体の中から聞くしか出来なかった。
孝太郎さんはそっとあたしの右手を取り、チュっとソコに口付けた。
「コレ・・痛かっただろう?ごめんな・・・」
あたしは横に首を振る。
「これくらい平気です。孝太郎さんと離れるくらいなら・・・」
「俺たちの想いは通じたんだね・・・生まれ変わっても捜し出してみせる・・見つけてみせるって。」
あたしはギュっと孝太郎さんに抱きしめられた。
・・なに・・この身体のそこから溢れるような愛しさは・・・
涙が止まらない・・・
「もう・・私を離さないでください・・・絶対に・・・離さないでください・・」
あたしの中の誰かがそう告げると、あたしの意識はパッと現実に戻っていった。
さっきまでの懐かしい香りは消え、今は香水の爽やかな香りがあたしを包む。
「・・綾。今の理解できてる??」
「え・・?えぇぇぇぇ?!」
あたしは抱きしめられていた事を思い出して、彼の胸をドンと押した。
「あ・・あの・・えっと・・・」
「フッ・・理解できてないんだ?。あぁ、俺、木下孝太郎ね。」
「あの・・どういうことか全く理解できてないんですけど・・」
「そっか・・綾にはちゃんとした記憶がないんだ?」
木下君はうーーんと考える素振りをして、「そっか、そっか」を繰り返す。
「しゃぁーないから、一から説明するわ・・・」
木下君は、あたしが見ていた夢の話を自分もよく見ていた事、
その夢の中の二人が木下君とあたしの前世である事、
その二人が転生して、自分たちを出逢わせたという事を話してくれた。
あたしは半信半疑だったけど、それを何より決定付けたのが・・・
二人の手の甲にあるサクラに似た火傷の痕だった。
「・・解った??」
木下君はニッコリ笑った。
「・・理解はしたけど・・」
「・・けど?」
「じゃぁ、これからどうしたらいいの??」
木下君はハァーーーとため息をつく。
「全然解ってないじゃんか。前世で俺たちは引き離されそうになったから、心中したんだろ?転生して今度は一緒になりましょうって約束してさ。だったら、俺たちは必然的に一緒にならなくちゃいけない運命なんじゃねぇの??」
「えぇぇぇぇ?!だって・・あたしには彼氏いるし・・・」
「・・・男いるの?マジで?んじゃぁ、すぐに別れてよ・・ってか、きっと別れる運命だと思うよ?だって、綾には俺がいるんだし♪」
「ちょ、ちょっと・・そんなぁ・・・」
「前世の俺たちの想いは強いんだよ?間違いなく俺と綾は一緒になるって決まってるの!!」