「どーっしたの?元気、ないよ?」
あたしとは正反対の元気で楽しそうな笑みを向けてくれる玲さん。だけど、今のあたしにはそれ以上の笑みを返すほどの元気は、無い。
「…えー?元気ですよっ?」
それでも、相手は玲さんだから。叫心のお兄さんだから精一杯心配かけないように笑顔を作る。
でも、やっぱり玲さんには勝てないみたいだ。玲さんは、怪訝な顔をしてあたしをじっと見つめた。
「…叫心と、ケンカ…でもした?」
「ケンカですか?そ、そんなのするわけないじゃないですかっ!」
「あは、だよね?だって、麗奈ちゃんと叫心はラブラブだもんね?」
ズキンっ…。
いつもなら、嬉しい言葉。
人から言われて一番嬉しい言葉なのに、今はどうしても嬉しくないの。
嬉しくなるどころか、どんどんむかついていく。
あの二人が、頭から離れない。
どんどん嫌なあたしになっていく。
いや、嫌だよ。叫心…。
「麗奈ちゃん?ほんとに大丈夫…?」
ボーっとしていたあたしの肩を揺らして、玲さんが気付かせてくれる。
ハッとして我に返ったときは、もうあたしの額には冷や汗がたくさん出ていて、どうしようもなかった。
玲さんに、動揺がバレバレだった。
「麗奈ちゃんの元気の無い理由は、ケンカじゃなくても…叫心絡みでは、ありそうだね」
そう言って、玲さんはニコッと笑いながらあたしの腕を引っ張って歩き始めた。
あたしに、行き先も告げずに。