「あんたのその身勝手で、麗奈がどれだけ泣いたのか…あんたは知らないでしょ!?」

「…泣いた?」

「そうよ。今思えば、あんたと付き合ってる間、あたし麗奈の笑った顔なんか見たことなかった」

「俺の前では笑ってたんだぜ…?」

「無理してた。…そう思う」


泣いてた?
嘘ばっかりつくなよ。俺の前では散々笑っておいて…、影で…俺の目が届かない場所で泣いてたなんて…!

いまさらそんなこと言うなよ…。


「麗奈はいつもあんたを束縛することを怖がってた」

「…は?」

「あんたが束縛されるのが嫌いだと思ってたから…」


松本のその言葉を聞くと、何だか笑えてきた。



「…ははっ。何だよ、それ。…何で…何でそうなるんだよ!!」



俺は目の前にあった壁を思いっきり殴る。どんなに殴ったって、目の前の壁は消えてくれない。

俺の頭の中にある麗奈との壁も消えてくれない。



「だから麗奈はあんたと別れる事を決意したんだよ…」



俺は壁を殴ることをやめ、ベッドへと寝転がる。ベッドの上で寝転がって思い出すのはあの日の事。

麗奈に別れを告げられた、あの日の思い出。


「ごめん。ごめんな…麗奈…」





もう戻れないあの日。

今はもう思い出だけにしか残っていないけれど…しばらくの間だけ。


ちょっとの間だけ、俺が麗奈を想うことを許してくれないだろうか?



そうすることで、俺は新たな道を歩いていける…。


そんな気がするんだ…。