「そんなに余裕があったんなら、勝てたんじゃないの?」


ドキン…。


それは今聞きたい言葉じゃなかった。

言ってほしくなかった。俺の本当の気持ちをかき乱すような言葉を。なのに、何でこいつはさらっと言ってしまうんだろう…。


俺だって、負けたくなかった。いや、負けるはずじゃなかったんだ。


だって、バスケは俺の得意分野だし、叫心がそんな俺に勝てるはずがないって思ってた。


なのに…。あいつは違った。


最初から俺が決めていたって、全然しっくりこなかった。簡単すぎる。そう思ってた。



…なら本当にそうだった。


叫心は急に人が変わったように、バスケが上手くなって、認めたくないけど…俺よりはるかに上手かった。


勝負が決まった瞬間は、俺の時がすべて止まった。

負けた。俺は負けたんだ。



バスケで負けたことよりも、もうこの手で…この体で麗奈を抱きしめることが出来ない。そう思ったら、勝手に涙があふれてた。

いや、それくらい…



「…本気だった…」

俺は、あの日。麗奈と付き合った日から本気だった。

大好きだった。


「じゃあ…何で付き合ってたころに大事にしなかったの…?」

「…麗奈は絶対俺に嫉妬しなかった。どんなに女子と話そうが、いつも笑顔で俺を迎えてた」


それがいつからかな。


何で嫉妬しないんだ?と思うようなったのは。だから、必死になって妬かそうと思った。


いろんな女と浮気して、麗奈としかしたくないキスだっていっぱいした。そのキスシーンだって何回も麗奈に見せた。


だけど、あいつはいつもなんともない顔して、俺に接してた。


「嫌だったんだ。俺に嫉妬しない麗奈が…」


「バカ!!」




保健室に、松本の怒りが混じった声が響いた。