side 暁羅





「…ッくしょっ…!」


ガタン!!と大きな音を立てて、保健室にあった椅子は倒れた。

だけど、今の俺にとってこんな音は小さな音にしか感じれない。


今の俺にとって、一番の大きな音…、いやそれは声だな。

麗奈の声。


俺がずっと手に入れたかった声。今はもう俺のそばで響くことがないあの声。




「保健室はあんたのおもちゃ箱じゃないんだよ」

後ろから声がして、俺は咄嗟に振り返る。



「…松本…」


保健室の入り口付近にいたのは、麗奈の親友の松本。



「負けたからって、荒れるんじゃないわよ」

「あ、負けたから荒れるのか」

松本はそう言って笑いながら、俺の蹴った椅子を起き上がらせる。


「何の用だよ」

「別に」


松本は、本当に謎。まずこいつは俺のことを心底嫌ってたはず。なのに一体俺に何のようがあるんだよ。



「これで、麗奈が笑うから…あんたには感謝するよ」


松本のその一言に、俺の思考回路は完全にストップする。


「…え?」

「ここ最近、麗奈はあんまり笑顔見せなかった。なのに、あんたと付き合うことになったら時にはどうなるか…って思ってた。」

「なんだよ、負けてくれてありがとうってか?」

「…ま、そんな感じ」


なんだそれ。
やっぱり、どいつもこいつもイヤミしか言ってこねーんだな。


まぁ…。それが俺の今までしてきたことに対しての罰なら…

喜んで受け止めるさ。




「ま、俺が負ける試合じゃないはずだったんだけどな」


俺は、余裕を持って松本に笑みを見せて、保健室のベッドに座った。