そのときのことなんて、麗奈はもう忘れてしまっているかもしれないけれど。


だけど、俺は覚えてる。はっきり覚えてるんだ。


誰もいない公園で、暁羅に怒鳴られ…置いてかれた麗奈は一人、静かに肩を震わせながら泣いていた。



あんなに仲が良いといわれているカップルが、こんな場所でケンカしていた…ということが意外で。

しかも、ちょっとそん時にラッキーと思ってしまった自分がいた。



だって、いまここで弱ってる麗奈の心に漬け込んだら、俺は暁羅から麗奈を奪えたかもしれなかったから。


そう思って、近づいたんだ。


だけど、話しかけた時に麗奈は一生懸命涙を隠し、俺に向けて無理矢理笑顔を作った。


その時に、あぁ…俺には付け入る隙なんて無いのかもしれない。


と、実感させられてしまったほどだ。



「笹岡君、ごめんね。本当に大丈夫だから…」



そう言った麗奈の顔を、俺は今でも鮮明に覚えてる。




きっと、麗奈はほんとに暁羅のことが好きだったに違いない。




だからこそ、今になってまた暁羅が麗奈のことを奪い返そうとしてきてることが、俺にとっては恐怖なんだ。


麗奈は今は俺だけを見てくれているのだけれど。

いつまで俺を見ていてくれるかも分からない。




暁羅とヨリを戻せることになれば、そっちに行ってしまうかもしれない。



だめだ。やっぱり、怖い。





気分転換に見た窓の外の空の景色は、今の俺の心の中の曇り色ではなくて、色鮮やかで光り輝く綺麗な青色だった。



「お、叫心!高橋だぜ!」


そう言って、雄大がさす方向へと目を向けて見ると。


少しオドオドしながら、教室の入り口の前に立っている麗奈の姿があった。



俺は麗奈に気付かれないよう、そっと背後に回ることにした。