「誰にメール?」

「女」

「あ、そ」

「かわいかっただろ?大西ルカ」

「……誰よ、大西ルカ」

「見たんだろ?」

……見たけどさ

「大西ルカはナルの可愛い子リストにインしてるからな」

「超どうでもいいんだけど」

「……あーあ、こんな風に言うつもりじゃなかったのに」

「??」

「もっと、なんつーか……ここぞって時に言いたかったのに」


返事はせずに、流れる紺色の空と暗い水の境目を見ていた


「いつもお前が言ってるけど、俺って水中で生活できるくらい水中が楽なんだよな」

水中が好きじゃなくて、楽なんだ

「だから、将来水泳関係の仕事につくのは容易っていうか……
うん、まあ……妥当というか、普通というか、先が見えてるというか」

「だね、アタシも想像つくよ、とよきが水泳のコーチしてる姿」

「だろ?
……だけどさ、それじゃダメなんだよ」

「何がダメなの?」


そう聞いても、とよきはそれからしばらくじっと黙ってしまった


ドアの向こう側から、ピアノの音が聞こえてくる

そのまま夜の空に吸い込まれていく音符の幻影

「……俺、国立大目指してる」

「え?」

「司法試験に受かりたいから、国立大目指してる」

「え?……は?」

「だから予備校に通ってる」

司法試験?????