なんか、ぼんやりと歩いて、心が空っぽっていうか

なんか、うん、久々に頭の中がさやかだらけっていうか


終わったんだな

俺、彼女いないんだ


『さやかちゃんがこの学校受験するっていうから、俺もこの学校にしたんだよね~』

ナルの軽いセリフが甦ってくる

高校に入学して間もない頃、同じ中学のよしみってことでナルがさやかに話しかけたのがきっかけだった

『またそんな適当なこと言って、小林くんは同中の子にそう言ってまわってるんでしょー』

さやかがそう返事してるのに、ナルは他のところにまた友達を見つけてヒラリとそっちに飛んでいってしまって俺だけ残されたんだ

俺はその時、朝のHRの時に、今度ある“春の遠足”のクラスリーダーとやらに選ばれてしまって落ち込んでる真っ最中だった
バスの中でのイベントを用意したり、何かとめんどくさそうな役回り

しかも入学してすぐの親睦を深めるという意味を込めた遠足だけに、まだクラスのノリやましてや全員の名前もわからないっていう状況下で、先行き不安要素だらけ


廊下の端でしゃがみこんだまま首の後ろを押さえて深いため息をついていた……


『どーしたの??』

って目の前にさやかがしゃがみこんでくるまで、さやかがまだそこに居るって思っていなくて

なつっこい子犬みたいに首を傾げるさやかに、1秒で目がハートになったんだっけ


『あ、いや……今度の遠足のさ、クラスリーダーとかってヤツに選ばれてさ』

『あ、それさやかも女子代表になったよ』

『え??女子代表とかあんの?』

『さやかのクラスはあったよ?理一くんのクラスもいるんじゃない?女子代表』

『誰が女子代表なんだろ……かわいかったらラッキー』


さやかは二つに結んだ毛先を指先でくるくるしながら『理一くん彼女いないの?』と聞いてきた

『かわいい彼女ほしいっす』

『さやかも、彼氏募集中』

……え?そんなかわいいのに??という言葉はいえなかったけど