彼の心が美しい何かを生み出すのなら

そしてアタシがその美しさに魅かれているのなら


オルゴールケースの中に入れて閉じ込めてしまいたいけれど

っていうか、閉じ込めかけたんだけど


変わらず空を見上げている彼の顔を見てクスクス笑う


「ほんとはね、今でも、ケータイに登録されてる女のアドレス全削除したいんだけどね」

「ああ~……うん、アハハ」

「束縛したくないの
……自分がそんな女に成り下がるのもイヤなの」


彼の顔を目に焼き付けたくて腰を曲げて顔を近づけると、伸びてきた手がアタシの髪を片方耳にかけた


「“彼女”のアタシは、“芸術家”じゃなくて“彼氏”でいてくれることを望んじゃうんだよ
そんなの、本末転倒じゃん」

「なんか、思ったんだけど」

「うん」

「あこは、多分一番俺のファンだよ」

「……気付くの遅くない??
あんたの外見だけにひかれてるファンと一緒にしないでよ」

「……そっか」

「アタシ以上のファンは、後にも先にも出てこないんだからね」

「……うん」


アタシは月に触れるくらい腕を空に向けて伸びをした

ふと影がアタシに伸びてくる

段上にいるロシアンブルーが立ち上がってて、アタシより頭一つ分以上高い場所にある顔を見上げると、ぎゅっと頭を抱きしめられた

学ランの下の黒のロンTは、彼の匂いがする