振り返れば蓮實がいる。
当たり前か。
「あ、ぁあっと!うん、そう!この小説には興味あるんだよねっ!」
嘘をついた。
知らない小説だ。
ただ目についたから、手に取っただけ。
だが、小説自体は好きだ。
「ふーん、じゃぁ、貸してやるよ。それ、面白いから」
「あ、ありが……と……っ!」
微妙だ。
本は好きだが、分厚い小説はあまり読まない。
時間がかかってしまうから。
そのあとは、手紙のことを言って帰った。
久々に話したけど、やはり、緊張する。
「ただいーー」
「だから、何度もいってるだろうっ!!」
びくっ、
思わず身震いした。
まただ。
夫婦喧嘩。
馬鹿みたい。
ああ、けれど、ちょっと、心臓が痛い。
ううん、大丈夫。
これは、
私 の こ と じ ゃ な い 。
私 の 家 じ ゃ な い 。
他 人 の 家 か ら 聞 こ え る ん だ 。
自室に入って、ヘッドフォンをかぶる。
そして、そう。
借りた本を読もう。
大丈夫。
私の家族は仲良しだ。