そのままベッドに倒される。




啓介はあたしに跨って、激しくキスをしながら雑な手つきであたしの服を脱がせていく。




「ちょっ・・けいす・・・け・・なに・・?」




「なにじゃない・・・今日は優しく出来ないから・・・」




啓介はそう言うと、あたしの首に強く吸い付いた。




啓介の様子がおかしい。




いつものように優しい愛撫はなく、男らしい愛撫・・・





でも・・・嫌じゃない・・・





啓介があたしをこんなに欲してくれてるんだと思ったら、余計にあたしの吐息も荒くなった。






「優子・・こっち見て・・・」




あたしは言われるままに啓介の顔を見た。





啓介は熱っぽい視線をあたしに向けている。




その視線だけで、あたしは気を失いそうになる・・・





「啓介・・・来て・・・」





あたしは自分から啓介を欲した。






「・・・優子の中で俺を受けとめて・・・」






そう言うと啓介はあたしの中で果てた・・・







啓介がそんな事をするなんて今まで無かったから、正直驚いた。




繋がったままの啓介があたしの耳元で、耳たぶを噛むように言った。





「・・ごめん。でも、どうしても優子に俺を受け止めて欲しかったから・・・」





「啓介・・あたし、嬉しかったよ?啓介にそう言ってもらって・・・」





啓介は、優しいキスを私に落とした。











リビングでコーヒーを飲みながら聞く。




「ねぇ、啓介・・なんで今日激しかったの??」




ぶっっっ!!



啓介は口にしたコーヒーを吐き出した。





「きったなぁーーい!!」




「優子が変な事言うからだろ??」




「だって・・・聞きたかったんだもん・・」




「・・単なるヤキモチ。」




「へ?」




「今日田中と呑みに行ってたんだろ?アイツ、優子のこと狙ってるって有名だったから・・・だから・・ヤキモチ・・それに、今日優子、俺を無視し続けてただろ?だから・・」




啓介はコーヒーカップに口をつけながら、あたしをチラっとみて言った。





「・・嬉しい・・・あたし、啓介が大好き・・」





あたしは、啓介の背後から抱きついた。





「・・優子・・・」




あたしは、啓介の膝に跨るように座って、自分から唇を重ねた。





啓介も、あたしの腰をグッと引き寄せてそれに応える。




「・・・優子・・・もう一回するか・・」




「・・うん」






あたしたちはソファーの上でもう一度身体を重ねた。






啓介はさっき同様・・・あたしの中で果てた。





果てた後で・・・






「愛してる・・・」





啓介はそうあたしに囁いた。








この頃から、啓介の言葉は「好きだ」から「愛してる」に変わっていった。




あたしは、それがとても嬉しくて・・・




でも、それと同時にあたしの中で抱いてはいけない感情が燻りだした。








・・・奥さん・・・どんな人だろう・・・




・・・啓介は奥さんとも身体の関係をもっているのか・・・




・・・あたしに会えない土日は家出何してるの・・・







京子が前に言っていた言葉を思い出す。




《優子って、独占欲強そうだから不倫に向かない》




その通りだった。




あたしは、啓介を独占したくなっていた。





あたしだけを見ていて欲しい。




あたしだけを抱いていて欲しい。




あたしだけを愛して欲しい。




あたしの傍にだけ居て欲しい。




毎日あたしの元にだけ帰って来て欲しい・・・・







こんなお願いを啓介に言ったら・・・




叶えてくれる??




・・・って、そんなの重たいよね・・・




でもね。




もう、限界かも・・・




あたし、もう啓介の全てが欲しくてたまらないの・・・






週末はあたしにとって一番辛い・・・



土日は、啓介に会えないから・・・



土日は一体何をしているの・・・?



気になって仕方ない。






金曜日。




あたしは啓介の愛情に溺れた。




啓介の吐息、熱、指先・・・全ての感覚を記憶する・・・




これで、土日は乗り越えられる・・・






「シャワー入ってくるわ」




啓介がそう言ってベッドルームを出る。




「うん、あとでタオル置いとくね」




そう言ってあたしはリビングに向かった。




リビングで冷えたコーヒーを一口飲んだ時、かすかに聞こえたバイブ音にピクっと反応した。




・・啓介のジャケットから聞こえるバイブ音。




時計を見ると時間は10時を回ったところ。




会社からではない・・・




となると・・・奥さん・・・・?




ガス給湯器のランプを見ると、使用中であることがわかる。




・・啓介はまだシャワーから出てこないだろう・・・




あたしは、意を決してジャケットから携帯を取り出した。




携帯を持つ手が冷たく汗ばむ・・・指も震える・・・




携帯を開いてみると、【のぞみ】の文字。




どうやら電話ではなく、メールのようだ。






ダメだ・・・ダメ・・・絶対ダメ・・・




そう思いながらも、受信メールを開いてしまった。






【今日も帰り遅いですか】






その一文を見て驚いた。





あまりにも無機質で、事務的な文章だったから。




あたしはそのメールを削除して携帯を閉じ、そのままジャケットに戻った。






なんだろ・・・




なんだか・・・わかんないけど・・・優越感に似た感情があたしを支配しだす。




奥さんは・・・啓介に愛されてない??




奥さんは啓介を愛していない??










「ふぅ~♪さっぱり♪」



啓介が暢気にバスルームから出てくる。



あたしは、平常心を装う・・・



・・・土日・・・啓介は何をしているのか・・・



・・・奥さんの事・・・とか聞いてみようかな・・・






「ねぇ・・啓介・・?」




「ん?」




「・・・家でシャワーとか入ってって・・大丈夫なの??」




「ん?なんで??」




「・・ほら・・ボディシャンプーの香りとか・・してたら・・」




「あぁ・・そんな事?大丈夫だよ。嫁、いつもこの時間には寝てるし、俺ら寝室別だし。」




寝室が別・・・そっか・・よかったぁ。




「そ・・そうなんだ・・ね・・奥さんってどんな人?いつ結婚したの??」




啓介はあたしの口から《奥さん》という言葉が出たことに驚いたようだった。




タオルで髪をバサバサっと拭いて話しだした。




「・・嫁は・・大学の時の同級生でさ。元々俺のツレの彼女で・・。ツレと色々あって、それを俺に相談しだしてからいつの間にか付き合いだした・・みたいな。結婚は、去年したばっか・・」




「そっか・・」




やっぱり・・聞くんじゃなかったかな。




めちゃくちゃ凹む・・・




啓介はあたしが黙り込んだのを見て、ギュッと抱きしめてくれた。




「そんな顔しないで。俺、優子にあんまり嫁の話したくないんだけど・・・」




「・・うん。でも・・・あたし・・・聞きたいの。知りたいの・・。」




「・・・なんで?」




「上手く言えないけど・・・奥さんが啓介を想うより、私の方が啓介が大好きだから・・・」




「・・アリガト、優子。俺もそういう優子が大好きだよ。」





啓介は優しくあたしの髪を撫でた。








「・・・啓介は・・浮気してて平気なの?後ろめたくないの?」




「・・直球でくるねぇ。浮気してて平気な訳ないでしょ。後ろめたい気持ちもあるし。

でも・・何より、優子にかわいそうな想いさせてるのが一番辛いんだけどね。」




「あたしに?」




「だって、昼間に堂々と二人で歩けないでしょ?それに泊まりもできないし・・
優子の友達が経験するような事を俺は優子から奪ってる気がするから・・」




「あたしは・・・啓介の傍にいられたらいいの・・・」




「・・・優子・・・」




「ねぇ・・啓介。正直に答えてくれる?」




「なに?」




「・・奥さんの事・・愛してる?」





啓介はその質問に顔を強張らせた。




意地悪な事を言ってるのはわかってる。




でも・・・今だけは嘘でもいいからあたしを一番に好きでいて欲しいの。






「・・・正直なところ・・今はなんとも思ってないんだ」





あたしが望んだ答えを啓介は言ってくれた。




「そっか・・・」




心の中でガッツポーズするあたしがいる。






「実はさ・・・結婚したくて結婚した訳じゃないんだ。」




「・・え・・?どういうこと?」




「嫁が付き合っていた、俺のツレ・・病気で亡くなってるんだ・・・。それで、ツレが嫁を俺に託した・・って感じで。そりゃぁ、はじめは俺も嫁が好きだったよ。でも・・結婚が義務みたいな・・使命みたいな感じになってきて。」




「・・・・・・」




「向こうもきっとそんな感じなんだろうけどね。じゃなきゃ、結婚1年目から寝室が別なんてありえないでしょ?ちなみに土日も別行動・・・食事も別・・・子供なんて考えられないし。」




「それ・・・ホントなの??」




「嘘みたいなホントの話。」




「・・・ごめん・・啓介・・・」





あたし・・・そんな話聞いちゃったら・・・




嫌な女になってしまいそう・・・







「何で優子が謝るの?謝るのは俺でしょ。俺と付き合ってなかったら、今、物凄くいい男と幸せになってるかもしれないし・・・」




啓介は自嘲気味に笑って言う。




「たら・・れば・・は、言って欲しくないよ。」





言ってはいけない言葉が・・・




喉のすぐそこまで出掛かっている・・・




《奥さんと別れて・・・》って言葉・・・




これだけは言ってはダメだ・・・




でも・・・それが本心。




じゃぁ・・・せめて・・・少しだけ我が儘言わせて・・・







「啓介・・・」





「何??」





あたしは啓介の腕をギュっと握って、啓介を真っ直ぐに見て言った。






「お願い・・・今日・・・帰らないで・・・」









「優子・・・」




啓介は明らかに困った顔をしている。




あたし、最低だ。




はじめは、ただ啓介が時間のある時に傍にいてくれたらいいって思ってた。




なのに・・だんだんと欲が出てきて。




奥さんとうまくいっていないとわかった瞬間、啓介を独り占めしようって考えて・・・




人の家庭壊してまで自分が幸せになりたい??




啓介を困らせるだけなのに・・・






「・・プッ!!もぉ!!啓介ったら・・冗談を真に受けて・・・嘘だよ?そんなの。ちょっと啓介を困らせたくなっただけ♪」



あたしはわざと明るく振舞って言った。





ホントは・・・今にも泣き出しそうなのに・・・





「さて・・そろそろ帰る支度して??あたし、もう眠くなってきちゃったから・・・」




精一杯の笑顔を啓介に向ける。





「優子・・・そんな顔しないで・・・」




啓介はあたしをさっきよりも強く抱きしめた。




だから・・・こういうのが辛いんだってば・・・わかってよ・・・





「・・・優子・・・俺・・・」





あ・・・なんか・・・嫌な予感がする。



別れるって・・・言われそう・・・泣くな・・泣くな!!




あたしは身体を硬くして啓介の言葉を待った。







「俺・・・今日帰らないから・・・優子の傍にいるから・・・」







啓介のその言葉に・・・




あたしは身体中の力を一気に抜いた・・・





あたしは啓介をギュっと・・・抱きしめた。




さっきまで耐えていた涙が一気に溢れていく。




泣いているのを気付かれないように・・・




声を殺して・・・




啓介の胸に顔を当てて・・・





《帰らないで》なんて、不倫相手が言ってはいけない言葉だってわかってる。




でも、それを啓介は受け入れてくれた。









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どれくらい啓介に抱きしめられていただろう・・・




あたしの涙は、もう止まっている。




啓介はずっとあたしの髪を撫でている。






・・・あ・・・奥さんに連絡しなくていいのかな・・・




これは、あたしの余裕。




でも。連絡いれない方があたし的には都合がいい・・・




無断外泊だなんて、《浮気してますよ》って言っているようなものだし。





あたしの中で、また別の・・違った感情が湧き出てきた。





啓介は、奥さんよりあたしを愛している・・・





これを確信した途端、あたしが奥さんよりも優位にたった・・・





だったら・・・奥さんにあたしの存在を知られたい・・・





貴女より愛されている女がいるんですよ?って知ってほしい。





そしたら・・・別れてくれるんじゃないか・・・






ブルっと身体が震える。





妻より上に立った愛人は、タチが悪い・・・





自分で自分が怖くなる・・・





啓介は・・・今腕の中にいる女がこんな事を考えているなんて知らないだろう・・・





ごめんね・・・これも全て、貴方を愛してるからなの。





あたしは、自分から啓介の服を脱がせていった。