映画も決め、席に着く。
「な、新しい店出来たみたいだからさ、映画終わったらそこで食事して行こうよ。」
「うん。」
「ごめんな、お腹減ってるだろ。
残業なかったら、先に食べてから見れたのに。」
仕事だから仕方ないよ、と言うと同時に館内の照明が暗くなった。
館内の人数は疎(まばら)らで、数えるほどしかいない。
響く音楽がうるさい程に。
「美波。」
甘い声が囁かれる。
「ん?」
「今日は家、来る?」
返事を待たずに、私の左手を握った。
「もう、これじゃあコーヒー飲めないです。」
離れるように力を入れた私の手をもっと強く握り、
「じゃあ俺が飲ませてやるよ。
口移しだけど。」
彼は私を飽きさせない。
‥